メール

 今日は終業式がある日。

 授業は無いのだけれども、代わりに長いホームルームをすることとなっている。

 夏休みに向けての、オリエンテーションが行われる予定になっていた。



 みんなでワイワイガヤガヤと話していると、先生がクラスにやってきたのでみんな一斉に席に着いた。

 いつもはダラダラと、ゆっくり自席へと向かうのに、今日だけは、きびきびと動いていた。


 長期休暇みたいな、目の前に楽しい行事を置いておけば、生徒の態度は良くなるのかもしれない。これは、学会で発表しても良いレベルの発見だな。

 そんなことを考えていると、先生から、夏休みの過ごし方という話をされた。


「高校生の夏休みっていうのは、一番自由な夏休みなんだぞ。何にも縛られない時間に溢れている。できることも増えてきているだろうし」



 わくわくそわそわしていたクラスメートは、いつにもまして勤勉に話を聞いていた。

 やっぱり目の前にご褒美を釣るっていうのは、人間にも有効なんだね。


 クラスメートたちは、先生がどんな話をしていても、目を輝かせて聞いてる。

 私はと言うと、いつもと同じくらいの目の輝き。

 何が変わるわけでもないし。


 夏休みって、陽キャにとっての楽しいイベント。

 特に友達もいない私にとっては、家にいるだけの退屈な時間が流れるんだよね。


「……ということで、夏休みが始まるが、みんな羽目を外し過ぎないようにするんだぞ!」


 そう言って先生は、クラスを後にした。

 残されたクラスメートは、またワイワイガヤガヤと話し始めた。


 話題と言ったら、夏休みにどこに遊びに行こうかというものが大半だった。

 私は誰とも話さないけど、聞き耳だけ立てていた。


「やっぱり、夏は海だよね。いつ行く?」

「私も海行きたいって思ってたよ。七月は部活が忙しいから、八月でお願いしたいかな」

「私も!」


 みんな楽しそうに話すんだよね。

 あんな風に自分をさらけ出すみたいな話し方って、私はできないんだよね。

 自尊心が高いのかな。

 うーん。


 机に突っ伏して寝ようと思ったら、いきなり話しかけられた。


「そうだそうだ! 文ちゃんも一緒に行こうよ! クラスの大体のメンバーが来るんだよ!」

「え、あ、そ、そうなんだ。ふ、ふーん……」


「一緒に行く?」

「い、いや、私は……」


「今決めなくてもいいよ、とりあえずグループメールに招待しておくね!」



 そう言って、アドレスだけ知っている関係の女子に無理やり招待された。

 まぁ、特に、行きたくないっていうわけじゃないんだよ。

 ただ、自分から何かを言うっていうのが、何か抵抗があって。

 自分の気持ちを言葉にするっていうのが難しくて……。



 さっそく、私がメンションされてメールが飛んできた。


「せっかくの夏休みだからさ、一生に一度の思い出作ろうよ!」


 大げさなんだよね、陽キャの人って。


「私も文ちゃんと遊びたーい!」

「私も私も!」


 こういうノリが難しくて。

 けど、行きたくないっていうわけじゃなくて……。


 それを口に出すっていうのが難しいっていうだけで。

 メールなら、私だって言えるんだよ。

 行きたくないわけじゃないもん……。


「私も行きたいな」


 その一言を送ると、すぐにみんなが反応してくれた。


「やった! 一緒に行けるなんて嬉しい!」

「一緒に行こう! 楽しみ!」

「文ちゃんなら、大歓迎だよ!」



 メールだったら、恥ずかしい本音も、さらけ出せる。

 行きたいって言うだけだけど、それも難しい私にとっては、メールって最高のツール。

 私は、メールが好き。

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