大暑

 大暑っていう季節がやってきたらしい。 

 書いてある字の通り。体育館の中は、すっごく暑い。


 全身がとろけちゃうよ。

 そんな中でも、スポーツっていうのは、走らなきゃいけない。

 特にバスケットボールなんて、走る競技の代表みたいなスポーツ。

 試合をやっている間、ずーっと走ってる。


 攻めて、守って、守って、攻めて……。

 飛び散る汗、汗、汗……。

 行ったり来たりするチームメイト、敵チーム。

 その中心にボールがある。


 味方が放ったシュート。

 それが外れてしまうと、みんなでボールに群がる。

 ボールは、相手チームが取った。


 こういう時は、すぐに切り替えて、自陣に戻ってディフェンスをする。

 早く戻らないと。



 ……って、あれっ? なんだか力が入らない?

 ……足が前に出ない?


 ……あっ!



奈津美なつみっ! 大丈夫っ?!」



 ――ピピー!




 ◇



 気付いたら、私は体育館の天井を見つめていた。

 どうしたんだろう、私……。


 天井と私の間に、ひょっこりと顔が二つ出て来た。

 体育の先生と、友達の飛鳥あすかが私の顔を覗き込んでいた。


「あぁ、奈津美が目を開けたよー、良かったー!」

「えっと……、二人ともどうしたの……?」


「奈津美さんは、ちょっと休憩しようか。多分、熱中症の初期症状だと思う」

「へっ? 私が熱中症? そ、そうなんですか?」


 二人の顔は、うんうんと頷いていた。


 そうか、私。

 体育の授業中に、倒れちゃったんだ。

 まさか、自分がいきなり倒れるとは思わなかったんだけど、ふっと意識が飛んで。

 気付いたら、ここにいた。


「そんな不安な顔にならなくても、大丈夫だよ。しばらく休めば治るからね」

「はい。ありがとうございます……」


「急に動かすのは危ないから、授業終わる蔵まで、そこでゆっくり休んでてね」

「はい」


 そう言って、先生は離れていった。

 残った飛鳥に、冷たい氷枕を当ててもらった。

 体育の授業はまだ続いていて、コートの中ではバスケットボールの試合が行われている。

 飛鳥は、少し残念そうにコートを見ているようだった。


「ごめんね、飛鳥。バスケするの好きなのに、私に付き添ってもらわなくても大丈夫だよ……?」

「あはは、いいよいいよ、私はいつだって部活でバスケできるし。奈津美の方が心配だもん」


 そういって、私のおでこを撫でてくる。


「うーん顔は、そんなに熱くなってないかな?」

「うん。大丈夫だと思うよ」


 ドンドンと、バスケットボールをドリブルをする音が遠くに聞こえるよう。


「久しぶりに、こうやって、二人でのんびりするのも良いよね」

「なんだか二人で話すのも久しぶりかもだね」


「最近どう? 楽しくやってる?」

「うん」


 昔、飛鳥とは色々あったけれども。

 こうやって、二人で話せる時間が出来たのは、嬉しいかもな……。


 これも、大暑のおかげかな。

 こういうことがあるなら、大暑って好きかも。

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