漫画

 私のクラスには、絵の上手い人がいる。

 名前は早紀さきちゃんっていうの。


 早紀ちゃんの描く絵ってすっごい可愛いんだけどね。

 誰にも見せたがらないんだよね。


 私だったら、人に見せびらかしたくなっちゃうんだけどね。

 私も、そんな絵が描けたら良いなーって思ったりして。

 けど、練習も何もしていないから描けるわけもないんだけどね。はは。


 どちらかというと、私は見る専門。

 だから、早紀ちゃんが描いている絵をよく見に来るんだ。

 早紀ちゃんの絵が私の好きな絵。



 今日も、早紀ちゃんの席に来て、絵を描いている様子を見ようと思ったら、なんだかこそこそと隠しながら描いている。


「早紀ちゃん! なんで隠しているの?」

「え、あ、何も描いてないよ!……って咲奈さなちゃんか」


 今日はなんだか様子がおかしいな?

 いつもと違ってすごく慌てている。

 人に見せたがらないって言っても、来るものは拒まずーって、マイペースで描いているのに。



「早紀ちゃん、何描いているの? 私、早紀ちゃんの描く絵が好きなんだよー。今日も見せてよー!」


 私がそう言うと、早紀ちゃんは照れ笑いをしながら、何かに迷っていた。


「どうしようかな。これはちょっとな一。見せてもいいかなー。けど、どうしようかなー」

「大丈夫だよ! 私、早紀ちゃんの絵ならどんな物でも好きだよ! 私は、ファンクラブの親衛隊長みたいなものだよ!」


 そう言うと、恥ずかしそうに何かを描いていたノートを見せてくれた。


「描いていたのは、これなんだけどね」



 早紀ちゃんが見せてくれたノートには、いつもの絵じゃなくて、なんだか枠組みと、簡単なラフっぽい絵が描かれていた。



「えっ、もしかして漫画描いてるの?」

「しーーーっ! 声が大きいよ! 誰にも言わないで欲しいの!」


 早紀ちゃんは慌てて、私の口を抑えてきた。

 口を押さえつけられながら、私はもごもごと早紀ちゃんに伝える。


「私は、誰にも言わないよ。ごめん」

「うん。じゃあ、見ても良いよ」


 見せてくれた漫画をじっくりと見ると、コマ割りもしっかりできている。

 最初の方のコマは、下書きも消してあって、いつもの早紀ちゃんの可愛い絵が描かれていた。

 いつものよりも、躍動感にあふれている感じの絵。


「早紀ちゃん、これってすごいよ! こんなのが描けるの?」

「うん。そうだよ」


 早紀ちゃんは、ちょっと恥ずかしそうにしながら言ってくる。


「絵が上手くなったら、漫画を描きたかったの。漫画ってやっぱり面白いから」

「うんうん。わかる! こんなに上手い絵を描く早紀ちゃんなら、きっと漫画家さんになれるよ!」


「ふふ。ありがとう。漫画って描いていても面白いんだよ。私、やっぱり漫画が好きみたいなの!」

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