ミッションインポッシブル

「えぇーーーっ!? そんなことは不可能だよっ!!」

「けど、それをしないと私は帰れないんだよー!」



 放課後の廊下に、私と明美あけみのしゃべり声が響いた。

 びっくりして、叫んじゃったけれども。

 明美が、いきなり難しいことを言ってきたの。


 財布を教室に置き忘れたらしくて、それを取りに行きたいって言うの。

 今日が金曜日じゃなかったら、大変じゃないんだけどね。金曜日の今日は、うちの教室が漫研部の活動教室にされちゃう日なの。


 漫研部が使って言ったら、アニメのポスターがベタベタと壁に貼られるの。アニメというか、萌え絵がいっぱい貼られて、それでそのキャラの声をやってる声優さんのポスターなんかも貼られるわけ。

 まさにオタクの巣窟になるわけ。


 そんなところに、財布を置いてきちゃったらしいんだよ。財布に通学定期が入っているらしいから、拾いに行かなきゃ帰れないんだけれども。

 これが中々ハードルが高い。



「なんで、金曜日なのに忘れてきちゃうのよー……」

「ごめん……。明日から連休だーって思ったら、気が抜けちゃったみたい……」


「まぁ、しょうがないんだけれども」


 はぁ……。どうしたものか……。


 そうは言っても、強い気持ちで取りに行くしかないんだよね。


「よし、二人で取りに行こう!」


 ◇


 二人で教室の前まで戻ると、教室の中からは、低い声と高い声が話しているようだった。多分好きなアニメのシーンを語っている気がする。興奮気味に早口になっている。


「じゃあ、二人で行くよ! せーのっ!」


 ――ガラガラ。


 私と明美が二人で教室に入ると、漫研部員たちが一斉にこちらを向いた。

 敵意のある目があったり、困惑している目があったり。もしくは驚いて視線をキョロキョロしている人もいた。

 その中の一人が椅子から立ち上がって、こちらに話しかけて来た。


「君たちは、部活見学か何かかな?」

「ち、違います……。忘れ物を取りに……」


「それは、早く取らないと大変ですね。どのキャラの辺りの席ですか? 代わりに取りましょうか?」

「部長! キャラ名が分からないかもなので、端から教えてあげなければですぞ!」


 わんやわんや言ってくる。

 漫研の人たちって、全然知らない話をしてくるんだよね……。そして、マシンガントークと言うか、こちらの反応を見ないで話してくるんだよ。

 話を合わせるしかないか……。


「いや、それは興味無いから、知らない!」


 明美がキッパリと断った。

 そして、一直線に席へ行って、机に入っていた財布を取って戻ってきた。


「失礼しました!」



 そう言って、すぐに教室を出た。

 明美がひと仕事終えた顔で言ってくる。


「ふうー……。どうにか取れたね!」

「強かったよー! 漫研部の人たち、びっくりしてたよ! ははっ」


「なかなか、ミッションインポッシブルだったけど、こういうハラハラするのも楽しかったね! 結構、好きかも!」

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