納豆

 いつも騒がしい教室が、今日は少し静かになっている。

 なぜなら、今日の給食が納豆だからだ。


 給食で納豆が出るときは、クラス中に緊張が走る。

 もちろん私も緊張するけれども、それだけじゃなくて、クラス中のみんながドキドキしているのが分かる。


「今日ってさ、納豆だよね……」

「そ、そうだよね……」


 隣の席のあずさも、緊張して話しかけてきたのが分かる。

 教室中が同じような会話をして、ざわざわとしている。


 納豆って、家で食べるときは、あんまり気にしないで食べているけれども、学校で食べるときは、納豆の食べ方が問題になるのだ。

 以前納豆が給食に出てきた時にわかったことだったことだったが、納豆の食べ方で、生活レベルが出てしまうようだった。


 見知った中だから良いと思っていたけれども、前回の納豆給食でわかったのは、クラスのマドンナの沙也加さやかちゃんの食べ方が汚いっていうこと。

 思い出すのはやめておくけども、沙也加ちゃんの食べ方一つで、周りの男子からの評判はガタ落ちになってしまったの。普段、いくら着飾っても、そこだけはどうしようもなかったの。人それぞれで良いじゃんと思うけれども。


 みんなに緊張が走っているのだ。

 給食当番によって、給食が運ばれてくる。


 ご飯、牛乳、お味噌汁。そして納豆。


 給食の納豆は、丸い容器に入っていて、蓋は透明なビニールでできている。

 各々の席に、運ばれてくる納豆。

 もちろん、味は大好きなんだけれども、食べ方なのよね。


 私たちが固まっていると、日直さんによって、給食を食べる合図がされる。



「皆さん手置合わせてください。いただきます!」

「「いただきます」」


 戦いの火ぶたが切って落とされた。

 しかし、みんな固まって動けないでいた。


 一番最初に、納豆だけは、食べられない。

 みんなの注目の的になっちゃうから。

 どうしよう。


 そう思っていると、前の席の田中が勢いよく納豆をかき混ぜ始めた。


「ちょ、ちょっと。田中君? なにしているの?」

「ん? なにって、納豆食おうとしてるんだけど?」


「それが、なにしているのってことだよ」

「は? 意味わかんねーな。別に食べる順番なんて人の好みだろ? 納豆を一番に食べてもいいだろ」


「い、いや、そうじゃ……」



 田中君は、綺麗に納豆の蓋を開けていた。

 ねばねばしている蓋が、他のものに当たらないように、きちんと折りたたんでる。

 容器の中にたれを入れて、容器の中でかき混ぜて、ご飯に掛けずに、一気に口の中へと入れた。


 潔いしカッコいい。

 ねばねばは、どこにも残らなかった。


 その後、ご飯を一口入れて、牛乳で少し流し込んでから、こちらに話しかけてきた。


「納豆って、やっぱり最初に食べるのが、美味しいじゃん!」


 そういって笑う田中君は、納豆を食べた後とは思えないような爽やかな笑顔をしていた。


「俺、納豆って大好きだからさ! 好きなものは一番最初に食べたいんだ!」

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