七夕

 風に揺れる笹の葉。

 いっぱいの短冊が吊り下げられている。校庭の隅に建てられた笹に生徒がそれぞれ願い事を書いた紙を吊るしている。


「五色の短冊ー、私が書いたー!」


 そんな歌を陽気に歌いながら、一葉かずはが笹に短冊を吊るしていた。黄色い短冊で大きな字で書いてあった。


 ――お小遣いがもっと欲しいです。


 なんだか可愛い願い事だなー。

 ちゃんと叶えられるように、大きな字で書いてお願いしたのかな?

 ふふ。なんだかいいな。


「一葉ちゃんのお願い事って何書いたのー?」


 見えてはいるんだけどね。一応聞いてみないとだよね。


「私はね、これだけど、あんまりマジマジと見ないでね」


 そう言って、一葉は黄色い短冊を見せてくれた。けど、なんだかこそこそとして、少ししか見せてくれなかった。


「お小遣いが欲しいって、そんなに恥ずかしい願い事じゃないよ! 私も同じようなこと書いたよー?」


 私も自分の書いた短冊を見せた。私の書いた短冊も黄色。

 書いた内容は、「今年のお年玉がいっぱいもらえますように」って書いたの。

 それを見た一葉は、なんだか複雑な顔をしていた。


三久みくちゃんは、素直で良い子だよね。お小遣いのことだけ書いてる」

「そうだよー。三久ちゃんだって、すっごい大きくお願い書いてるじゃん? 私よりもストレートだよ!」


 そう言って笑っていたけど、一葉ちゃんは笑い返してくれなかった。深刻そうな顔をしたと思ったら、俯いてしまった。


「……三久ちゃんにだけは、本当のこと言おうかな。……あのね。本当のお願いごと書きたいけど誰かに見られると恥ずかしいんだ」


「うん? どういうこと?」



「あのさ、私さ、実はさ……」


 そう言って、一葉ちゃんは黄色い短冊の端っこを見せてくれた。そこには小さい字で何か書かれていた。


 ――健人けんと君と、楽しくおしゃべりできますように。



「えーーっ!! これってーーっ!?」

「シーーーーーーーーッ!!!」


 一葉ちゃんは慌てて私の口元を塞いだ。


「声が大きいよ三久ちゃんは!」

「……ごめん」


 三久ちゃんは一息つくと、私の口から手を放してくれた。そして、恥ずかしそうな顔をしながら話してくれた。


「……もう大きい声出さないでよ? 私ね、健人君が好きなんだ」


 私は声を出さないように、うんうんと頷いて答えた。


「本当はお願いしたいんだけど、誰かに見られると恥ずかしいから。カモフラージュしてみたの」


 照れながら三久ちゃんは話してくれた。

 そのカモフラージュの内容が、私と一緒っていうところは、ちょっと複雑な気分だけれども。

 けど、こうやって私に打ち明けてくれたっていうのは嬉しいな。

 これも七夕のおかげかもね。


「私も内緒にしておくよ! 叶うといいね!」

「うん、ありがとう!」


 こうやって、三久ちゃんのことを知れたり、仲良くなれる。

 七夕って好きだな。

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