サラダ記念日

 暑い日差しがじりじりと肌を焼いていく感覚。

 夏が来たなって感じる。


 梅雨はいつ終わったんだっていうのも同時に感じるけどね。



「そうだ、今日って、何の日か知ってる?」

「うん? なんだっけ、お前の誕生日だっけ?」


 ――バチーーーーン!!


「違うよ、ばか!! 私の誕生日くらい覚えててよ!!」

「いってーーーーっ!!」


 思いっきり背中を叩いてやったから、私の手も痛い。

 聡志さとしの背中を見ると、くっきりと私の手の跡がついている。

 季節外れの赤い紅葉だ。


 聡志は、背中の紅葉に手を伸ばして、痛さを確かめている。


「……ってーーーよ。冗談に決まってるんだろ……」

「はははっ。自業自得ー!」


 プール掃除が終わったあとで、ダラダラとプールサイドで話すのが日課になっている。掃除っていっても、プールの水を全部抜くわけじゃなくて、周りを掃除するっていうだけ。プールに浮かんだ葉っぱとかのゴミ掃除。

 けど、そういうゴミって、大体が端にある排水溝に集まるから、それを取るっていうのがメインだったりもする。


「今日はさ、『サラダ記念日』っていう日らしいよ」

「へぇー? あぁ、教科書に載ってるの見たことあるぜ! 俳句のやつだろ?」


「そうだよ。サラダを褒めてくれたから、『サラダ記念日』になったらしいんだ」

「あぁ。俺も知ってる。これでも国語の成績良いんだぜ!」


 得意気な顔をして言う聡志。


「読解力があるっていうやつ?」

「そうだぜ! ちゃんと作者の意図がわかるからな!」


「へぇー」


 自信満々に言ってもね。

 すぐ近くで話している人の言葉の意図が分からないんじゃ、意味無いよね。


 まだ梅雨だからか、蝉の鳴く声なんて聞こえない。

 静かなプールに立つ波の音が、ちゃぷちゃぷと聞こえる。

 熱い日差しが肌を焼いていく音も聞こえそう。じりじり。


 ――じりじり。

 ――じりじり。


 私の気分と一緒。

 耐えきれなくて話しちゃうのが私の悪い癖なんだよな……。


「……あのさ、聡志。今日さ、このあと、ヒマ?」

「…… おう。ヒマだぞ」


 ――じりじり。

 ――じりじり。


 ――ちゃぷちゃぷ。




「聡志ってさ、本当に国語の成績いいの?」

「もちろんだよ! 何で疑うんだよ!」


「はぁ……。私の言いたいこと分かって無いじゃん」

「何が言いたいんだよ?」


 聡志の顔は、どことなく赤くなっている気がした。暑い日差しにじりじりやられたように、頬骨を中心にして赤く染まってる。


 ――じりじり。


「……一緒にサラダ食べに行くか?」

「……うん」


 ……ちょっと違うけど。それでも良いか。



「……聡志と一緒にサラダを食べる日だから。今日はサラダ記念日」


 ……サラダ記念日って好きだよ。

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