露天風呂
わざわざ梅雨っていう季節を選んで、旅行するっていう人ってほとんどいないんだよね。
雨が降っていると、観光も楽しめないことが多いから。
それと同じことが、温泉地にも起きるわけで。
確かに、秋とか冬とかに温泉入りたいーって思ったりするし。
春休みやら夏休みに温泉旅行に行くーっていうのは、大いになると思う。
けど、連休も無いような時期で、しかも雨が多い季節。
私だったら、温泉行こうとは思いつかないな。
そんな傾向を察知した友人の幸子が計画して、温泉旅行なるものに来ているわけです。
私と
旅館に来た時点で、ほとんど人が見当たらない。
部屋に荷物を置いたら、すぐさま温泉に来たけれども。
脱衣時にも人が一人もいなかった。
「思った通り、貸し切りだね!」
「幸子すごいよ!」
「さっちゃん、推理力がすごすぎです!」
私と由紀ちゃんが褒めると、誰もいない脱衣所で裸を見せびらかしながら幸子はドヤ顔をしていた。
幸子は、特にスタイルが良いというわけじゃないけれども、この時ばかりは私と由紀ちゃんは、二人で拍手を送っていた。
「じゃあ、私が一番乗りー! 一番風呂じゃー!」
「じゃあ、私が二番一!」
「あぁ、待ってよー!」
三人で、浴場へと行き、まずは身体を洗う。
浴場は広くて、20人くらいは使えるような蛇口とシャワーが備え付けられている。
誰もいないから、それを三人で優雅に使う。
頭と身体を先に洗ってしまい、そのままの勢いで温泉へと入る。
「はぁーーー。あったかいーーー」
「私もっと。あ、気持ちいい……」
「本当だね、こんな広いのに三人で貸し切りで、気分も開放的だよ一」
広い浴槽だけれども、三人で端っこに固まって座って、温泉を楽しむ。
「いいね一。極楽だよー。こんなに広くて、貸し切りっぽくなってもえ、それで今シーズンは料金も安いっていう」
「よくこんな所を見つけられたね。幸子はすごいなー」
「さっちゃんは、いつも目の付け所が違うよね」
ずっと褒められてる幸子は、得意げな顔をしている。
私たちを気持ち良い温泉に連れてきてくれたんだもん。
幸子は、もっと気持ち良くなっても良いよね。ふふ。
幸子は、バッと立ち上がった。
「私の調べだとね、ここ、露天風呂もあるんだよ。あの扉の向こう! 行ってみよう!」
そう言って浴槽を出る幸子を、私と由紀ちゃんは追っていく。
ドアを開けると、雨が降っていた。
その中に、ほんのりと湯気を立てている露天風呂があった。
今度は、三人で一緒にゆっくりと湯へと入った。
雨に打たれながらの露天風呂。
これは、これで、初めての体験で。
なんだか、面白くもあり、気持ちよくもあり。
不思議な感覚。
幸子は笑って言ってくる。
「梅雨を感じられて。私、こういう露天風呂も好きなんだ!」
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