ノーコード開発

 パソコン部への仮入部一日目。

 いきなりの難題が出てきた。

 ノーコード開発。


 どこで言葉が区切れるかも、良くわからないし。

 もしかしたら、漢字で『濃厚度開発』かもしれないし。

 なんのことやらさっぱりな課題が与えられたの。


 パソコンの前で私は一人。

 暗い画面を見つめて過ごす。


 電源のつけ方さえも分からないのに、何をしろって言うのか。

 運動部に入ったら、まずは基礎練習って言って、ボールを使わない走り込みとかをするじゃないですか。

 パソコン部に関しては、空中でのキーボードタッチ練習とか、マウスを操作するための素振りとかをしなくてもいいのかな。いきなりパソコンなんて。


 入部したての一年生を公式試合に投入するくらいリスキーなことなんじゃないんですかね。

 そんな不安な顔をしている私自身が、パソコンの黒い画面に映っている。

 毎日、朝鏡で見る顔だけれども。

 朝の方が、まだ良い顔しているよ。

 どうなっているんだろう。


 そう思っていると、女の先輩が私の後ろについてくれた。


「もしかして、花澤はなざわさんって、初めてだったりする? もしかして、家にパソコンが無かったりする?」

「は、はい! 初めてなんです。私パソコンなんて生まれてこの方見たことも触ったことも無くて」


 私の様を見て、先輩は笑っているようだった。


「そうよね。最近の家はパソコン無いっていうもんね。私が教えてあげるから安心していいよ」

「あ、ありがとうございます! 神です。先輩神です」


「大げさだなぁ」


 そう言いながら、先輩はパソコンの電源をつけてくれた。


「はっ」っと驚きながら、そのまま同じ言葉が私の口から出てきた。


「パソコンが動きました。ハイテクノロジー。文明の利器! これがIT革命ですね!」

「……うーん。全然違うけれども。『パソコンが付いたから嬉しいです』という意味でとらえておくね」


 私は、こくこくと頷いた。

 パソコンの中に、小さなアイコンが並ぶ画面になって、動きが止まった。


「それじゃあ、今日の課題って言われていたものをやってみようか?」

「は、はい。濃厚度のうこうどな開発というものを教えて欲しいです」


「うーん。花澤さんは変な言い方をするね。もしかしたら、パソコンの前に座る前に座学をした方が良かったかも」

「ぜひぜひ、先輩に教えてもらいたいです」


 先輩は、あきれながらも少し嬉しそうな顔をして教えてくれた。


「ノーコード開発っていうのはね、『コーディング』つまりはプログラムを書かないでも、プログラムが動くようにしたものなんだよ」

「……ぜ、禅問答みたいですね」


「ふふ。花澤さんはとりあえず、聞くよりも慣れてみよう。そういう意味で、ノーコード開発は花澤さんにピッタリかもしれないよ」

「なるほどです。先輩が言うなら、私はノーコード開発が好きになれそうです!」

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