私のことを知るツアー
「夏至って昼が長くていいよね。全然暗くならないから無限に遊んでられるよ!」
「いや、時間は変わっていないからね。俺は、明るかろうが時間になったら帰るよ」
「はぁ? 一緒にいろし」
眼鏡をかけて、まじめぶっちゃってさ
いつも屁理屈が多いんだよね。ロマンチックな返しとかできないのかね。
例えばさ、「君と長くいられるから嬉しいよ」とか言えばいいのに。
「そろそろ時間になる。俺、いつも通りに帰るよ」
「帰るなよー。夏至だろー。もっと遊ぼう遊ぼう!」
和也はベンチから立ち上がり、こちらを振り向いた。
「そもそも、公園で遊ぼうなんて、子供かよ。もっと、高校生らしい遊びっていうのがあるだろう?」「えっ? なにそれ、どこなのそれ?」
「えっ……? それはさ。た、例えば……」
「例えば?」
……ふふふ。既に私の勝ちが見えてきているね。
和也はディベートっていうのが弱いんだよ。
今時の若い子のデートスポットを和也が知るわけないもんね。
どんなところが思いつくのかな?
「た、例えば、工場見学とか?」
「へぇ? なにそれ? 楽しいの?」
和也は自分のアイディアが正しいことを説明しようとして真剣な顔になってる。
立ち上がったのに、またベンチに戻ってきて座った。
「例えば、お菓子工場の見学とかがあるんだよ。お菓子を一から作る工程が学べるんだ」
「へぇー?」
手でジェスチャーをしながら話してくれる。
多分ベルトコンベアなのかな?
私は、話半分しか聞いていないけど、力説してる。
結局一緒にいる時間が長くなっているから、私の作戦勝ちだね。ふふ。
とりあえず、うんうん。っていう感じで聞いてる。
「……で、その工程もさることながら、お菓子の歴史なんかも一緒に学べてな」
「ふーん、ふん」
「工場を出るころにはお菓子に詳しくなっているんだ」
「それって、楽しいのー?」
「そりゃあ楽しいだろ! 一つのことを専門家に聞いて詳しくなれるんだぞ? こんなに楽しいことは無いぞ」
「それが楽しいならさ、『私のこと知るツアー』っていうのはどう?」
「な、なんだそれ……? 別にそんなもの……」
少し顔を赤らめる和也。
ふふふ。わかりやすいなー。
そして、やっぱりディベートが弱いなー。
「私のことを知れるんだよ? 幼少期の私から写真で見れたり」
「ほ、ほう……?」
「私の製造者である、お母さんに話が聞けるの。当時の私はどうだったかとか。そこから、どう変わっていったかとかね」
「な、なるほど……?」
「どう? 『私のことを知るツアー』行きたくなった?」
「ま、まあ、そうだな。行きたいかもな」
ふふ、これで、私の勝ちです。
チェックメイト!
「じゃあ、今から私の家に行こう! 『私のことを知るツアー』の開幕です!」
「は、はぁ? 今から?!」
私は立ち上がって、和也の手を取る。
「家に帰りたいっていうのと、『工場見学」。どっちもできるから嬉しいでしょ!ね?」
「いや、そ、それは。お前が家に帰るのと、俺が家に帰るの」
「いつか和也の家にもなるでしょ?」
ふふふ。
和也は顔が真っ赤だ。
今日は私の勝ち!
「『私のことを知るツアー』って、我ながら、なんかいいね! 夏至にはもってこいな企画だね。私、好きだな。ふふ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます