ミント

 夏が近づくと、巷にはミントが流行るんだよね。

 春には桜のお菓子が流行ったり、抹茶が流行ったり。夏にはスイカフレーバーとか、梅風味とかが溢れるんだよね。それってなんでだろうね、大量生産でもして余っちゃったのかな? それとも、季節の味をみんなにお届けーってことなのかな?

 理由はどうあれ。季節を味わえるって私は好きなんだ。


 今の季節は、なぜだかミントが流行っているの。

 期間限定チョコミントアイスとかもあるし。ミントフレーバーがいっぱいあるんだ。ミントなんて、一年中手に入るものかと思ってたけど、旬の季節があるっていうことなんだね。

 なんにしても、旬のものは美味しいんだよね。



 お弁当も食べ終わったし、ミント味のガムでも欲しくなるところだけれども。

 今日は持ってきてないんだよね。

 どうしようかな。


 そう思っていると、緑川みどりかわさんがやってきた。


「午後の授業って、最初は音楽だっけ?」

「そうだよー。今日はね、合唱の練習をするって言ってたよ」


「そっかそっか。教えてくれてありがとう!」


 緑川さんはうんうんと頷いて、なにやらポケットから取り出した。

 小さな四角いケースに入った、お菓子のようなもの。


「音楽の授業なら平気そうだけど、午後の授業って眠くなるよね。私ね、食後はミントのタブレットを食べるようにしてるんだ。眠気も吹き飛んで、頭すっきりするよ」

「へぇ、そうなんだね。それ、いいね」


「息もすっきりして、良い匂いになるんだよ。はいどうぞ」

「ありがとう」



 ……ってもらってみたけれども。

 なんとなく今の蛇足で付け加えられた一言。「息もすっきりして良い匂いになる?」っていった?


 そして、言い方にちょっと棘を感じると言いますか。

 私って、匂うのかしら……。


 手に乗せられたタブレットを、ぼーっと眺めてしまう。

 まぁ、人間には、そういう欠点もあるよね……。


 けど、それでも友達でいてくれる緑川さんみたいな存在を大切にしよう。


「食べてみてよー。これ、鮎川あゆかわさんに合うと思うんだ」


 ……そうだよね。息が臭い私にピッタリ。

 ……うぅ。


 小さなタブレットの粒を口に入れると、サーっと清涼感が私の身体を駆け抜けた。

 鼻も口も、胃の中からその先まで。

 何だろう、浄化されていくみたい。

 これは、美味しい。


 身体の中から全身綺麗になりつつある私のことを、緑川さんはニコニコして眺めてくる。



「これ、すごく美味しいよね。私も最初食べた時、衝撃を受けたの。すっごい美味しいからあげたくなっちゃうんだ」

「なるほどね。確かにすごいよー」


「けど、ミントって、あまり好きになってくれる人いなくて」



 あぁ、なんだ。

 私の息が臭いっていうことじゃなかった。


 ミント嫌いな人が多いから心配していたんだね。

 けど、それなら私は大丈夫だよ。


「緑川さんありがとう! 私、ミント大好きだよ!」

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