選挙

 生徒会長を決める選挙。

 清き一票を私も送るんだ。


 ……って、意気込んでいたんだけれども、いざ一票を投票しようとすると、悩んでしまう。どっちの立候補者の公約も良いんだもん。


 選挙公約を宣言する会での一幕を思い出す。


 ◇


「私が当選した暁には、『おしゃれな髪ゴム禁止』という校則を緩和させます! 高価なものをつけようとか、それで何かしようっていうわけじゃないのです。それをつけるだけで楽しくなるんです!」


 強い意志を感じせる立候補の美鈴みすずさんは、演説を続ける。


「話題も増えますし。勉強の邪魔にならない範囲で、金額設定を設けて、緩和させることを実現します!」


 カッコいい。

 確かに黒い髪ゴムだけだと、テンション上がらないんだよね。

 これは、美鈴さんに投票しようかな。


 次の立候補の演説。


「私が当選した暁には、おやつタイムを設けます」


 ……な、なんだそれは、魅力的な。


「みんな、お弁当を持ってきているのです。その中で、デザートを持ってきている人もいますし、それは、お菓子と区別のつかないものである人もいます」


 ……確かに。


「何か後ろめたいことをしている気分になってしまいますし。そもそも、今の年頃の私たちにとっては、栄養補給は急務! 食後のデザートという位置付けて、お菓子を持ってくることを許可する校則にします」


 うんうん。いいかもしれない。


「もし、ごみが多くなるということを懸念する人がいたら、罰則も併せて設けます。ごみを出した人クラスは、一週間お菓子禁止。連帯責任です。街の美化を目指すのと同じ要領で、クラス内を綺麗に保とうという空気が生まれて、より良い学校生活が送れると思います!」


 ◇


 そんな感じでね。

 どちらも魅力的だったの。どうしたら良いんだろう……。


 どうしよう。うーん。

 花より団子、団子より花。

 うぅ……。


「お、水木みずきじゃん? どうしたんだよ? 投票しないのか?」


「だってさ、どっちに投票したら良いかわからなくなっちゃって」

「好きな方に投票すればいいじゃん?」


「どっちもいいんだもん。だけど一票だけしかないんだよね。悩むー……」

「どっちかしか選べないもんな。じゃあさ、お前は、お菓子食べたいか?」


「うん。そりゃあ、食べたいよ」

「俺も食べたいけどさ。お前が可愛い髪飾りしているのとか見てみたいって思うよ」


「……へっ? どういうこと?」

「そのままの意味だろ。俺、髪飾りの方の公約言ってる美鈴さんに投票しようっと」



 ……いや、いきなり唐突過ぎるでしょ。

 でも、え、なんで、気持ちが揺れてるんだろう。私も、こいつに髪飾りを見せたくなってきているけれども。

 そんな不純な動機で、決めちゃってよいのかな


「選挙が大事というかさ、これをきっかけにして、先のことまで考えるのが大事だよな」


 ……確かにそうかもしれない。


「もしお菓子の公約が叶ったら、一緒にお菓子食べようぜ」



 ……すべてがいきなり過ぎだよ。もう。

 そういうのは、心の準備をさせてくれっていうの。



 もう、私もどっちに投票するか決めた。

 そして、名前を書いた紙を、投票用紙を箱へ入れた。


「あれ? 意外とすんなり決めるんだな? 水木は、どっちにしたの?」

「ふふ、言わないよー!」


 なんだか、悔しいことに、こいつに楽しそうなことを想像させられてたけども。


 選挙を通して、先を考えるか。

 そういう意味で、選挙って好きかもな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る