ハゲた頭

 化学の先生に韮崎っていう先生がいるの。

 知っている人は知っていることだけれども、韮崎先生はハゲている。


 本人は、誰にもばれていないと思っている。だから、ずっとカツラを被り続けているんだ。ハゲていようが誰も気にしないと思うけれども、本人が気にしているからみんな黙っている。


 そんな先生に対して、ハゲだの言って責めてしまうのは、かわいそうだし。

 ハラスメントや、多様性の時代だから、ハゲのことをいじってしまってはいけないんだよね。けど、陰ではひそひそと言われている。



「韮崎先生、じめじめした季節だと、ちょっとずれてるね」


「カツラの仲の頭皮に汗が溜まって蒸れないのかな?」



 私自身は、特に気にしていないけれども。何かと正義感の強い景子にとっては、それが気に入らないようだった。

 化学の授業の終わりになると、景子は教卓に近づいていった。



「先生、何か隠しごとしていないですか?」


「い、いきなりどうしたんだ? 先生は特に何もしていないぞ?」


 ――ドン。

 景子は、怒り気味に強く教卓を叩いた。


「嘘をつかないでください!」



 いきなりの怒声に、教室中が驚いていた。

 景子はいきなり変な行動に出るところがあるから。今回も、なんだかいきなり韮崎先生に絡みに行って。


「先生、毛が少ないのって、何がいけないの? 隠さなくていいじゃん!」


 いや……、ストレート過ぎるでしょ……。なんでそんなこと言うのよ……。



「な、何の話だ? 先生は何も隠してないぞ」


「髪の毛が無いっていう見た目がカッコ悪いんじゃなくて。こそこそと人に言えないことを隠していることとか、それを取り繕って嘘を言っている人がカッコ悪いと思うよ!」



「なっ……。先生のこれはそういうことじゃ……」


 韮崎先生は頭を押さえながら、慌てた調子で返していた。



「嘘を隠そうとしていること、嘘を平然とついていることが気持ち悪いです。それがあるから、陰口があるんです! 堂々としてください、先生!」


 ……いやー、痛烈。そこまで言わなくてもいいのに。じめじめした季節だからって、そんなにストレスたまっちゃってたのかな?


「……分かった」


 そう言うと、先生は教室を出ていった。



 ◇



 次の日、また化学の時間が来ると、昨日の韮崎先生のことで、また陰口が言われていた。


「韮崎先生の髪の毛のこと言われて、たじたじだったよね」


「ははは。あれは面白かったな」



 その声に対して、景子はガタガタと聞こえるように、貧乏ゆすりをしていた。

 そんな中で、先生がやってきたのか、最初は誰が教室に入ってきたか分らなかった。


 髪の毛がふさふさしていた先生はもういなくて、代わりに残った髪の毛をすべて沿ってすっきりした頭の人が教卓にやってきた。そんな姿を見て、景子は椅子を倒しながら思いっきり立ち上がった。


 ガタンッと倒れる椅子よりも大きい声で、景子はしゃべった。

 先生も、景子の方を見て、男らしいカッコいい顔で答えていた。


「韮崎先生!とってもカッコいい髪型です! 私は、今の韮崎先生の頭が大好きです!」

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