無重力

 よく私は宇宙のことを想像するんだ。

 宇宙って、無重力なんだよね。地球の重力の束縛を受けないで、ふわふわと浮かぶんだよ。何にも、誰にも縛られないで、自由にぷかぷか浮かんでるの。そういうの映像なんかを見ると、私は自由だなって思って、好きなんだよね。


 人の話もそうだったりしてね。



「今日って、めっちゃ暑くない?」

「そうだよね。連日連夜、暑くてさ。エアコンガンガンつけてるよ。まだ梅雨だって来てないのにさー」



 扇子を持参してきて、自分を仰ぐ裕子ゆうこ。それを、羨ましそうに見てる加奈子かなこ。二人で、夏の暑さについて話していたところに、そいつがやってくる。



「今日はすっごく暑いね! まだ初夏だったはずなのに、ーってなるよね。ーっていう」


 声の主は、りんだ。

 まだ16歳だというのに、オヤジギャグが酷いの……。

 もうしょかって、なんだか、無理やりオヤジギャグにしているあたりからして、ちょっとみんな引いている。これが日常茶飯事だったりするけれども。



「……ま、まあ、そうだよね。今日は暑いよね」

「暑いけど、少し涼しくなれたかもねー……」


 若干裕子と加奈子の顔は引きつっているけれども、答えを返す。凛はそれに対して、うんうんと頷く。



「良かったー。私のギャグが分かってくれたんだね! やっぱりセンスあるよ、二人とも!」


「あ、ありがとう?」


「うんうん。やっぱり扇子を持ってるだけあるよね! 仰ぐ方のやつね! 加奈子も今度扇子持ってきなよ。けど、もし持ってなかったら、私のあげるね。私はたくさんを持ってるかなね!」



 人の顔色を見ながら喋った方が良いとは言わないけれども、相手が引いてるのかどうかは、見極められるようになってたらいいと思うんだけれども。凛はドヤ顔で二人を見ていた。別に上手いこと言ってないし、それこそセンスが無いような……。

 凛は、ほとんど人の話を聞かないから、受け答えがトンチンカンだったりするんだよ。だから、傍から見ると、ふわふわ浮いているように見えるんだよね。さながら、それは宇宙空間でふわふわと浮いている宇宙飛行士さんみたいなの。



 それってなんだか、カッコ悪いことに見えるけれども。話の流れを気にせずに発言していて、なんだかすごく自由に見えるし、宇宙飛行を楽しんでいるように見える。


 一緒にいた私にも、凛は話しかけてきた。


「あなたにも、私のセンス、あげようか?」

「ふふ。うん! くれると言うなら、欲しいよ。私、凛ちゃんの無重力な感じが好きだよ」

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