古い映画

 駅の近くにある映画館。

 昔からあるのは知っていたけれども、行ったことが無い。

 だって、流行りの映画はやっていないんだよ。代わりに駅ビルの方にできた映画館なら、流行りのやつもやっているし、綺麗だし、何よりポップコーンが美味しいの。

 けど、こっちの映画館で見ようって、彼が誘ってきたんだよ。


「えぇー? この映画館でしかやっていないんでしょ、そのマイナーな映画。しかも古い映画だし……。そんな映画見るの?」


「だって、その映画好きだもん」



 ……なんか駄々こねてる子供みたいだし。人の気持ちを考えないのかね。私は、やっぱり映えている方がいいのにな。

 例えばさ「昨日は彼とデートでどこ行ったの」って聞かれたらどうしたらいいっていうの?

 こんなお化け屋敷みたいなところで映画見たよなんて言ったら、友達に笑われちゃうよ。


 それでも、彼は楽しみにしているのか、うきうきした顔を浮かべていた。


「この映画ね、ネットじゃ見れないんだよ。やっと。上映しているところを見つけてさ」


「えー……、そんな映画って、本当に面白いの? 古いし、世の中に出回らないっていうことは、面白くないんじゃない?」


「けど、映画ってさ。みんなが面白いって言うから、面白いの?」



「……え、そりゃ、そうなんじゃないの?」


「そういうこともあるかもけど、エリはそういうのが好きなの?」


「当たり前じゃないの? 皆が良いっていうものが、みんなで楽しめていいじゃん!」


 彼は遠くを見るようにしていた。



「友達が多いと、見る世界が違うのかもね。俺は、エリだけでも、この映画を好きになってくれたら嬉しいな。まあ見てみたら、面白いってわかると思うよ」


「ふーん、本当にそうなのかな? みんなが楽しめないような映画……。それって、私でも楽しめるのかな……?」



 ◇



 ……楽しかった。

 ……何でだろう。古臭かったのに。映像とか、音質とかが良い訳じゃないのに。


「映画ってさ、色褪せないって言うか。そこに良い世界を閉じ込めて結晶にした感じだよね。いつまでも、変わらず煌めいていて、たまにそれを眺めたくなるんだ」


「……うん。今なら、なんとなくわかる気がする」


「な? そうだっただろ?」


 悔しいけど、本当に良くて。

 これを見たことないって人には、見た方が良いよって伝えたくなっちゃう気分。

 もしも、古いってバカにされようとも。

 今の私なら、自信を持って言えるかも。


「面白い映画ってさ、いつまで経っても面白いんだね。……私もさ、今見た映画好きだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る