ロースイーツ

 お腹が空いたら、食べる。

 それが、人間の摂理よね。

 それは、宿命とも呼べるわけです。


 人間に生まれたからには、そうしないと生きていけないと言っても過言ではないのでありまして。

 私が今、食べようとしているということは、自然なこと。生きるためにしょうがないこと。

 それを妨害してしまうのは、私を殺すに等しいです。


 私の意思とは無関係に、私の右手がそーっとお菓子に手をかける。



「ダメだよ。今、ダイエット中でしょ」



 そんな声と共に、いきなり右手を掴まれたから、ビクッとしてしまった。

 どこからともなく現れた手が私の右手を妨害してくる。


「そ、そうはいっても、お腹空いたもん。なんで邪魔するのよ! 私は食べるったら食べたいの!」


 その手を振り払おうと、してもがっちり掴んでくる。うぅう……。

 私の手を掴んでいた正体を探ろうと、手の付け根を追っていくと、たどり着くのは私の身体?



美紀みき、何やってるの?」

「え、あ、あれ? 私何やっているんだ?」


「ダイエットし過ぎでおかしくなっているよ。自分で自分の手を掴んじゃってるし。大丈夫?」


 優しく私を気遣ってくれるのは、隣の席のマブダチ。明美あけみ

 私と違って、すごくほっそりとした体形をしている。私も、明美を見習いたいと常々思っている。


「そんなになるまで我慢しない方がいいよ? ある程度食べないと、逆に身体によくないからさ?」

「そうはいっても……。私、夏までに痩せたくて……。うぅ……」


「じゃあさ、こういうのを食べたらどうかな?」


 明美がポケットから取り出したのは、袋に包まれた棒状の物。

 楽しそうに取り出す様は、何か陽気な効果音が聞こえてきそうな気がしてくる。

 明美は太っていないから、『未来の道具』っていうわけじゃないだろうけれども。


「これ知ってるかな? こういうのを『ロースイーツ』っていうんだけどね」

「何それ?」


 まさに、眼鏡をかけたのんびりしている男の子のような返しをしてしまったけれども。

 聞いたことも無い名前だから、未来の道具とは言わないまでも、最新のものであるのだろう。


「ローっていうのは、焼かれていないっていう意味なんだよ。『生』のていう意味。自然にあるままのスイーツなの。こういうのを食べても太りにくいんだよ」


 痩せている明美に言われると、説得力が段違いだ。


「そうなの? じゃあ私にも少し分けて欲しいです。お腹が空いてどうしようもなくて」


「ふふふ。もちろんだよ。とっても美味しいから、気に入ると思うよ」


 そう言って差し出されたものを、私はすぐさま口に入れた。

 自然由来なのだろう。素朴な味が口に広がった。


「どう、美味しいでしょ? 私、これ好きなんだよ。ふふふ」

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