歩行者天国

 今日は、なんと。

 待ちに待った秋葉原への小旅行に来たのです。朝からドキドキしながら電車を乗り継いで、茨城の山の奥からえんやこらと。制服のスカートのプリーツを何度も整えてしまう。どうしよう、私浮かないかな? アニメっぽいコスプレした人とか多いのかな。大丈夫かな……。



 けど、そんな考えは一瞬で吹き飛んだ。



 電車を降りた瞬間、目の前に広がるのは、アニメで何度も見たあの景色。ビルの隙間から差し込む朝日が、色とりどりの看板をキラキラと輝かせている。



「す、すごい。これが秋葉原っていうやつだ……」


 思わず漏れた言葉に、私は我に返った。ここは、私が夢見たアキバ。ここでは、午後から歩行者天国が始まるっていうけれども、その前から人々でごった返している。カメラを構える外国人観光客、コスプレをしたグループ、急ぎ足で通り過ぎるサラリーマン。それぞれの人が、それぞれの物語をアニメの中にいるみたいな。一人一人が物語を紡いでいる。


 街を歩き始めると、心地よい風が頬を撫でる。開放感に満ちた空間は、まるで別世界。私は深呼吸をして、その空気を胸いっぱいに吸い込む。ここでは、誰もが自由で、誰もが主役になれる。私も、この街の一部になれるんだ。あぁ幸せ……。


 歩いていると見えて来たアニメショップの前で立ち止まり、ショーウィンドウに飾られたフィギュアを眺める。その繊細な造形に見入っていると、隣で同じくフィギュアを眺めていた女の子が話しかけてきた。「そのキャラ、かわいいよね!」彼女の笑顔がとても暖かくて、私は思わず頷く。


「ねぇ、暇なら一緒に時間潰してよ」

 そんなことを言われたので、私たちは一緒に店内を回った。メイドカフェに出勤前に暇をしているメイドさんらしかった。そんな人と、アニメの話で盛り上がった。私と同じ高校生。アニメが好きで、プライベートでも、よく秋葉原に来るんだって。彼女は、この街のことを色々教えてくれた。隠れた名店、おすすめのカフェ、そして、この街の小さな秘密まで。


 時間が経つのを忘れてしまうほど、私たちは楽しい時間を過ごした。夕暮れ時、人々の流れが少しずつ変わり始める。歩行者天国が終わりに近づき、車が通り始めた。


「じゃあ、私は仕事が始まるから、またね! 今度うちの店にでも来てみてね!」


 そう言って、人混みに身を投じていった。

 色んな人がいて、みんなそれぞれが物語の主役で。

 また会いに来るよって心の中でそっと誓いながら、電車へと乗って家へと向かった。


 秋葉原って、やっぱり良い街だな。

 時間限定で開放される歩行者天国のように。また来た時には、次の楽しいが待ってる気がする。

 私、歩行者天国って好きだな。

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