2024年6月
麦茶
――チュンチュン。
目覚まし時計をつけ忘れたのか、目覚めが遅かったかもしれない。
朝の光がカーテンの隙間からそっと部屋に滑り込んでくる。その光で目を覚ますと、まず感じるのは、麦茶の香り。朝の光と共に立ち上るその匂いが、私は大好きだ。
部屋の隙間からすすーっと私の元へとやってきて、私を起こしに来てくれているみたい。
「おはよう、麦茶!」
麦茶に優しく起こされた朝は、寝覚めが良い。
優しい匂いに包まれた部屋。目には見えないけれど、それは感じられる。
自然と笑顔になりながらベッドから抜け出すと、足元に散らばる制服を拾い上げる。制服のスカートをはき、ブラウスのボタンを一つ一つ丁寧に留めていく。鏡の前でリボンを結び、髪をブラシでとかす。すべての準備が整ったら、キッチンへ向かう。
キッチンでは、ママが既に麦茶を作ってくれている。夜間にじっくりと煮出した麦茶は、深い味わいとなって、朝の慌ただしい心を落ち着かせてくれる。幼稚園の頃から、この時間が一番好きだった。
「おはよう、ママ」
「おはよう、
ニコッと笑うママ。
優しさは部屋中を満たしていて、それが私の心を温めていく。ママが昨日の夜から作っていてくれたって思うだけで、どんどん私からも優しさがに煮だされていくみたい。
煮だされたら、香ばしい匂いが湧きたつように。私の口から言葉がふわりと出てくる。
「ママ、いつもありがとう」
「どういたしまして。今日も頑張ってね!」
私から出される言葉よりも、ママはいつも温かい。私はいつも、ママの声にいつも温かく包まれちゃうんだ。そして、私の一日を優しく包み込む。
水筒に麦茶を注ぎ、私はママに挨拶をする。
「いってきます!」
「いってらっしゃい!」
家を出ても、ママの優しい言葉が私の周りにあるみたい。ずーっと優しくて温かい気持ちでいられる。
高校への道のりを歩き始める。良い一日の始まりは、ウキウキと足が軽い。何があっても、乗り切れそうだって思っちゃう。
この水筒に入った麦茶があれば、どんなに忙しい日でも、私は頑張れるって感じる。
学校への道すがら、友達と合流する。彼女たちは私の水筒を見て、いつものように笑う。
「また麦茶? 美味しそうな匂いが漏れてきてるよ!」
「うん、これがあるから、私は頑張れるんだよ」
彼女たちは笑いながらも、私の水筒を温かい目で見てくれる。麦茶は私にとって、ただの飲み物ではない。それは、私の小さな魔法の飲みもの。麦茶って、本当に好き。
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