女流棋士

 女子も男子も関係ない。


 荒野に一陣の風が吹くように窓から風が入る教室で、私の『香車』のピストルが盤上を打ち抜く。

 パチンと駒をを鳴らすと、静寂が訪れる。

 今の一手は、急所を打ち抜くくらい強烈な一撃よね。


 明が黙ってしまうのも無理はないでしょう。

 静寂の中、私も静かに呼吸を整えて、頭を働かせる。

 私の順番が終わったとしても、それは休憩っていうわけじゃない。

 この時間の間に次の一手を考える。

 初夏の暑い日差しが降り注ぐ、教室。

 将棋を指す音が響く。

「今の一手、なかなかいいね。十分に良い手だけど、もう一歩先を読み切れいていないんだよね。光はまだまだだね」

「なんでよ、今の良かったでしょ。最前中の最前なんだから!」


「そう思っているうちは、まだまだ。二手先までは、読んでいたってところかな?」


 明は、私の『香車』を取る。

 そうすることはもちろん読んだ上での攻撃だったんだもん。


 ――パチン。


 これは、真剣勝負なの。

 私はこの勝負に勝たないといけない。


 なぜなら、負けた方は『プリン』を食べる権利をはく奪されてしまうのです。

 そうなってしまったら、由々しき問題・オブ・ザ・イヤーです。


 今日は給食のプリンが余ったの。

 それを欲しい人と募ったところ、私と明が手を挙げた。


 二人でじゃんけんで決めても良かったけれども、明の方から将棋の勝負を持ち掛けてきたの。

 明が得意っていうのもあるけども、私だって得意だったから受けて立った。

 明がその勝負を選んだっていうのは、将棋の好きな私に対しての明らかな挑戦状なの。


 そんなことをされたら、断るわけにはいかないし。

 受けて立ったからには、絶対に負けない目の前の盤面で、駒たちが対戦を始めている。

 敵の駒を倒して持ち帰り。

 逆に自分の駒がやられると、相手に捕まってしまう。


 私の香車ちゃんだった駒、寝返りが早いのよ。

 明の持ち駒になったとたん、一気に攻めてきた。

 そして成って、私に王手。


 あれ、もしかして……。

 明はここまでの展開を読んだ上で、私に香車を打たせたの……?

 明の顔を見ると、うんうんと頷いていた。


「僕の戦法がわかったっていうことは、光は前よりもレベルアップしているってことだよ!」

「なんで上から目線なのよ。まだ負けてないでしょ」


 ――パチン。


「じゃあ、僕はここに指して。王手」

「え、やだやだ、なんでそうなるの! 待って待って!」


「もう、先が見えちゃったってことかな?これで僕の勝ちだね」

「うぅ。参りました……」


 私のプリンが。あぁ……。


 負けてしまったから、プリンの権利は私には無くなってしまった。

 けれども、明は私にプリンを渡してきた。


「やっぱり光もレベルアップしているよ! もっと強くなって、僕とプロ目指そう! 女流棋士ってカッコよくて僕好きだよ!」

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