足湯

 部活前の着替えを行う更衣室。

 梅雨に入る前だというのに、じめじめ。

 別に陰気な性格の人が多いわけじゃないんだけどもね。


 人が集まると、湿度は自然と上がるわけで。


 そんな更衣室に、乾いた明るい声が上がる。


「先輩、足湯行きましょ―!」


 高めの可愛い声。

 私は低い声だから、こういう声にちょっと憧れたりもする。


「いや、遠慮しておきたいな。足湯なんて行きたいの?」


「それはもう、手放しな感じで、足湯には行きたいですよ。私が住んでたところには無かったんですよ」


「はぁー。まぁ、そだよね」


 最近入ってきた、部活の後輩。

 田舎から引っ越してきたらしくて、人懐っこい。

 まあ、ここが都会っていうわけじゃないけど。


 ことあるごとに私に絡んでくる。


 部活に入部してきて、初日に更衣室で隣で着替え始めた時から、ちょっとおかしいなと思ってたんだけど、妙に絡んでくるの。

 二人一組でパス練習する時も一緒になるし。

 休憩時に飲むような水筒の置き場所も、私の隣に置くし。


 私が絡みやすいってわけじゃないと思うんだけどな。


「先輩って、やっぱり気が合いそうだって思うんです!」


 人懐っこい子というか、やっぱり私に懐いているのかな。

 身長は小柄で、お人形みたいに顔も小さくて可愛い。

 私が嫌う理由も無いし、避ける理由も無いからなー。


「まぁ、今日暇だから行ってもいいけど」

「やった――――! 本当ですか! ふふふ。じゃあ、今日の部活は、思いっきり汗かいてきましょー!」


 この子、勘違いしてないよなぁ?

 足湯って、足だけなんだけども。



 ◇



 じめじめした体育館で動いたから、後輩の思惑通り汗びっちょりだった。

 しっかり汗を拭き取って、制汗剤をかける。

 冷たいスプレーに、汗は止まるけど。

 それで、べたべたは取り切れない。



「先輩。行きましょ一!」


 今日は、一番べたべたしてくる後輩を足湯へ連れて行かないとだからね。


「先輩と一緒のお風呂ですね。楽しみです!」

「ちゃんとわかってるよね?足湯だからね?」


「わかってますよー!二人で一緒に足を隣り合わせて。ふふー」


 うーむ。



 ◇



 学校からの帰り道に、足湯がある。

 誰でも無料で入れるところだ。

 この季節に観光客なんていない。

 地元の人なんて全然入らないから、私と後輩だけ。

 辺りはまだ少しだけ明るい。


「じゃあ、入りましょ!」


 後輩は、ウキウキで靴と靴下を脱ぐ。

 私は、一呼吸おいて恐る恐る脱ぐ。


「素足ってさ、見せるの恥ずかしくない?」

「え、それって、汚いってことですか?」


「そういうわけじゃないけどさ。普段は見せないところを見せるのって、勇気がいるというか」

「ふふ。早速、普段は見れない、恥ずかしがる先輩が見れてます」


 今までこんなに、私に近づいてくる人はいなかったし。

 ちょっと可愛いし。

 それは、もちろん、後輩としてって意味だけ汗で身体はべたべたしているけれども、一緒に入った足だけはすっきりと気持ちが良かった。


「裸の付き合いは、まだ早いかもですけど、裸足の付き合いって良いですよね。私、足湯好きです!」

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