サロンパス

 放課後の教室で、背中にサロンパスを貼るという行為をしています。

 サロンパスって、湿布です。

 青い人がCMしているあれです。



 それを私が貼るんです。

 自分に貼るんじゃないんです、友達の美代子に貼るのです。


 これが何を意味するかっていうと、美代子みよこが素肌を見せているっていうこと。

 年頃な女の子なんだよ。

 その友達の丸裸な背中を見ているのは、私だけ。


 夕暮れの教室で、美代子はワイシャツの背中部分だけをまくり上げて、ブラを少しずらして。



 なんと言えばいいのか……。

 背徳感がすごいです……。



亜紀あき、ちょっとどうしたの? ここだよ、ここ!」


 肩の上から手を回して、背中の真ん中を指している。

 肩甲骨にある、天使の羽が浮かび出てくる。

 細身な身体だからか、とてもくっきりと見える。



 綺麗な肌をしている。

 人の背中なんて、まじまじ見たことないからな。

 これは、そそるかも。


「じろじろ見てないで、早く貼ってよ」


 貼らされるの、なんだかめんどくさいなーって思ったけども。

 何か得しちゃった気分だな。



 ふふ。

 こういう時って、ちょっと意地悪したくなっちゃうな。

 例えば、背中に指を一本当てて。


 すーーっと。


「やだ! ちょっと何してるのーーっ!」

「うふふ。綺麗な背中しているね!」


 そうやってからかうと、美代子は身体を振り向かせてきた。

 そして、怒った顔を見せる。


「亜紀、背中はダメだよ!」

「いや、背中に貼らないとダメだからさ? 凝ってるんでしょ?」


「そうだけどさ」


 ワイシャツ越しの美代子の肩を掴んで、前を向かせる。

 そして、また見える背中。


 ふふ。私は背中が好きだな。

 ずっと見てちゃうなー。


「ちょっとー! 早くしないと、誰か来ちゃうからさ。貼っちゃってよー」

「あ、はーい」


 愛でるのは、また今度にしようかな。

 今日の様子だったら、きっと明日も貼ってって言われそうだし。


「もう、美代子はさ、部活頑張り過ぎなんだよー!」

「だってさ、バレーボール部って、やっぱり背中を使うんだよー」


「それは、私もわかるけどさー」


 そう言いながら、サロンパスを美代子の背中に貼る。


「ひゃーーー! やだやだやだー!!」


 美恵子がいきなり騒ぎ出した。


「どしたの、どしたの? 誰か来ちゃった? 私なんかしちゃった?」

「……ううん。違うの。すごくヒンヤリしたから声出ちゃった」


「へ? まあ確かに冷たいけども。そんな変な声でる?」

「すごい冷たいんだよ? ちょっと、亜紀も背中出して」


 美恵子は、また振り向いてきた。


「いや、私はお願いされて貼っただけだし……」

「いいから、背中出して!」


「やだよ、やだやだ!」

「いいから、いいから!」



 ――ガラガラ。


 教室のドアが開いた。

「あ、ごめんなさい。私、何も見てません」

 教室のドアが閉まった。


 ――ガラガラ。



 私と、美恵子は二人で固まってしま多t。


 大事な部分は隠れているけれども。

 なんだかこの状況は、勘違いでもされそうなわけで。


「亜紀、やってしまったね……」

「美恵子、やってしまったね……」



「けど、サロンパス貼れたし、部活行こうか」

「そうしよう」


 私と美恵子は、乱れた服を直した。


「亜紀、ありがとうね。とっても気持ちいいよ。私、亜紀の貼ってくれたサロンパス、好きだよ」

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