お茶漬け
『精神と時の部屋』という概念を作りしたのは、神様と評される、とある漫画家。
神様が作りし部屋は、漫画の中の世界だけだと思っていた。
現実世界に、そんなものは無い。
数分前の私は、そう思っていたはずなのです。
この部屋に入った時から、違和感を感じていた。
そして気付いたのだ。
この部屋の時間の進み方が、異常に遅いの。
私が、勉強を始めてから、何分経ったかというと、まだ一分も経っていない。
これは、相当過酷な部屋のようね。
漫画の中だと、常人は数分間部屋にいただけでも発狂するって言われていたし。
私は耐えられるのかしら。
辺り一面が、真っ白な世界。
そんな風に言いたげな今日の日付が、ノートの上にちょこんと書かれている。
――コンコン。
「お姉ちゃーん、勉強はかどってるー?」
ノックをするなり、妹はすぐに部屋に入ってきた。
この、精神と時の部屋に。
私は教科書を置いて、真っ白なノートを隠した。
「えぇーっと、どうしたの? もう、何時間もこの部屋にいたくらいの気持ちだよ?」
「へぇー」
私の行動を見ていた妹は、私がノートを隠したことを怪しがっていた。
妹は勘が鋭いんだよな……。
「まぁいいや。夜に勉強しているお姉ちゃん。お腹空いてない? 何時間も勉強しているみたいだと、なおさら空かない?」
「そ、そうだね。すごく空いた気がする!」
妹は、ニコニコと不敵な笑みを浮かべている。
「じゃあ、お姉ちゃんは今、『ベストコンディション』っていうわけだ!」
「うん? 疲れて、お腹空いてたら、それはコンディション悪くないの?」
「夜食を食べるには、ベストコンディションっていうことだよ」
妹は、自信満々に胸を張って言った。
「けど、夜食って太るからさぁ。私はあまり食べないようにしてるんだけどな」
「ちっちっちっ。そのセリフ、これを見てからでも言えるかな?」
飯テロでもする気なのか……?
妹は、茶碗に入った白いご飯を出してきた。
それを勉強机の上に置くと、ポケットから透明のジップロックに入った謎の粉を取り出した。
そして、その怪し過ぎる粉を、ごはんの上に振りかけ始めた。
とりあえず、見守っておこうかな……。
今のところ、怪し過ぎて食欲も湧かないけども……。
「これにね、お湯をかけるの! すると不思議なことにー?」
この得体の知れないものが、いきなり美味しそうになるなんて、考えられないけれども。
けれども段々と、美味しそうな匂いが漂ってきた。
「え、なにこれ、美味しそうな匂いがする?」
「ふふふ。これは、私がブレンドした、お茶漬けなのです!」
「……ブレンド?」
「そうなのです。いろんな食材を粉々に粉末状にして、ベースとなるお茶漬けのもとに入れたの!」
お湯を入れ終わると、何とも言えぬ、美味しそうなお茶漬けが出来上がっていた。
透き通ったお湯。
そこにつかる、芯がありそうな固めの粒。
一粒一粒が輝いて見える。
そして、何よりも、食欲をそそるのは匂い。
醤油ラーメンなのかな? 焼き鳥なのかな? 夜に嗅ぐと罪深い匂いがする。
「召し上がれ! 頑張るお姉ちゃんを応援するお茶漬けだよ!」
「……ありがたいけれども、夜食飯テロだよ。それは、ギルティだよ」
「大丈夫だよ! お姉ちゃんが勉強した分のカロリーを補給するだけだから! 私の大好きなお茶漬け。召し上がれ!」
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