旅のしおり

「旅に欠かせないものとは、何だと思いますか」

「えぇっと……。スマホ充電器と、あとお金、あと化粧道具」


「はい。あなたは、三流です!」

「なっ……」



 委員会活動は、そんなやり取りから始まった。


 今年初めての委員会活動の日。

 私は、修学旅行委員会に入ったの。


 今、黒板の前で何か仕切り始めている、美恵子みえこに誘われたんだけれども。

 見た目は、コテコテのギャル。

 ルーズソックスを履いて、金髪。

 髪の毛は、上に重心を集めたように盛られている。


 その格好自体はいつも通りだけれども。

 変な質問しだして、美恵子はどうしちゃったんだろう?


「じゃあ、そっちの、杉沼君。同じ質問に答えてみて。旅に欠かせない物は何?」

「え、俺? えっと……。旅には、あれだろ。彼女とか友達とか、一緒に楽しめる人と行くのが良いだろ」


「はい。二流」

「はぁ?」


 美恵子は、傍若無人な感じで進めていくけれども。委員会をするにしても、そもそもまだ委員長とか決めてないんですけども……。


「みんな。旅を何だと思っているんですか!」


 美恵子は、教卓に両手をついて訴えかけた。

 迫力ある態度に、みんなを威圧してしまっている。

 いきなり始められてしまってもついていけないし。


「ちょっと、恵美子。飛ばし過ぎじゃない? まずは自己紹介とか、挨拶とかから始めようよ?」


 こんな時は、同じクラスの私が止めてあげるしかないよね。


「……そう? まぁ良いけど。私は、絶対に修学旅行を楽しみたいの。だから最初に伝えたくて」

「どうしちゃったの美恵子。人が変わったみたいになっちゃってさ?」


 美恵子を連れて、席へと戻る。

 とりあえずおとなしく私の隣の席に座る恵美子。

 そうしていると、顧問となる先生がやってきた。


「なんだか、今年の修学旅行委員会は、元気が良さそうだな。外まで聞こえてきたぞ?」


 日本史の先生が、顧問となるらしい。

 いつも、授業中にご当地アニメの話題を詰め込んでくるような先生。

 適任といえば適任だと思うけど、恵美子は日本史嫌いって言ってたな。

 大丈夫かな。反りが合わないんじゃないかな?。



「じゃあ、挨拶がてら。さっきちょっと聞こえてきたけど、修学旅行に必要なのは何だと思う?」


 先生はみんなに呼びかけるけれども、恵美子に否定されまくったみんなは、発言するのをためらっていた。


「好きに言ってくれて構わないぞー。どんな答えでも、正解だぞー。誰も手を上げないなら、指名するか。一番答えを聞いてみたい、美恵子! 答えてくれ」


 教室中の視線が、美恵子に集まった。

 美恵子は、椅子から立ち上がると話し始めた。


「修学旅行には、旅のしおりが必要だと思います。何も調べずに行っても、楽しみ方がわからずに終わることが多いからです」

「うん。なるほどな。良い意見だ」


 先生も満足そうに頷いていた。


「旅が終わってから、あの時ああしてればッていうことをよく思います。一生に一回きりの修学旅行。私、後悔だけは絶対したくないんです!」


 ギャルな見た目をしているのに。

 姿勢を正している。

 ルーズソックスまで、正装のように見えてしまうくらい。


 恵美子は、ただただ真っすぐに先生を見つめていた。


「私、ここにいる修学旅行委員全員で力を合わせて、旅のしおり作りたいです。旅のしおりが好きって気持ち、みんなにも知ってもらいたいんです!」

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