照り焼きバーガー

 雲が形を作っていく。そんな昼時。


 今日は午前授業。

 お弁当もなく、解散となる。


 部活もないし、帰るしかないけど。



 お腹すいたな。


 ぼーっとしてたら、みんな帰っちゃった。

 一人でどこかのお店に入る勇気もないし。


 いるのは、一人だけ。

 クラス内でちょっと浮いている不思議ちゃんこと、平子ひらこさん。


 しょうがないから、不思議ちゃんを誘って、お昼でも食べようかな。



「ねぇねぇ、平子さん。お腹すいたね。今日さ、一緒にご飯でも食べて帰らない?」

「照り焼きだ」


 窓の外を見て、うわごとのように言う不思議ちゃん。

 やっぱり、不思議ちゃんだな……。


 これは、どう反応すればいいのかな……?



「私、照り焼きバーガーを食べないと、生きていられないじゃないですか?」

「……えーっと。そうなんだね?」


 これは、噂以上の不思議ちゃんだ……。

 けど、昼ごはん食べたいしな……。

 もう少し押してみようかな。


「じゃあさ、ハンバーガー屋さんに一緒に行って、お昼ごはん食べない?」


 不思議ちゃんは、指を横に振った。


「ちっちっち。私はそれを、『ごはん』とは呼びません。私はそれを『照り焼きバーガー』と呼びます。そして、それは、『照り焼きバーガー屋さん』です!」

「……は、はぁ」


 まじめに言っているのか。冗談なのかもよくわからない。

 綺麗な顔をしているのに。


 不思議チャンは、ヤンキーとはまた違うんだけれども、綺麗に脱色された金髪をしている。

 アルビノっていうのかな?

 生まれつき素が薄いみたいな気もする。

 もしかして、体質的に、本当に照り焼きバーガーを食べないと、生きていけないのかもしれない。

 そう思うと、ちょっと人と違うのも、受け入れてあげなきゃ可哀想だなって思っちゃうな。


「じゃあ、照り焼きバーガー屋さんに行こう? おすすめのところとかあったら教えてよ」


 私がそういうと、不思議ちゃんはにっこりと笑った。


「ふふふ。照り焼きバーガーを照り焼きバーガーたらしめるのは、まさに照り焼きなのです」


 ……やっぱり話が通じているのかわからないけども。

 こういう子なんだろうな。


 私は、不思議ちゃんと駅の方向へと向かった。



 ◇



 初めて見る路地。

 駅の方向に向かう道だけれども、大通りから一本通りが違うだけで、見たことない道になる。

 なんだか不思議な気分。


 照り焼きバーガー屋さんは、その道にあった。


「ここです。とても美味しいんです」


 キッチンカーで売られている照り焼きバーガー。

 クレープ屋さんやら、ケバブ屋さんみたいで、なんだか珍しい。


「そういえば、私お財布持っていなかったです。おごってください」

「……え? そうなの?」


 ここにきて、わざとらしいというか。

 珍しいお店を紹介してもらえたから、まぁいっか。


 私は、言われるまま不思議ちゃんに、照り焼きバーガーを買ってあげた。


「人のお金で食べる、照り焼きバーガーほど美味しいものは無いです!」


 やっぱり、わざとなのかと思わせる言葉だけれども。

 良く見ると、不思議ちゃんって可愛い顔しているんだよな。


「照り焼きをありがとう。お礼に半分あげるね。そっちの半分と交換しよう!」


 そういって、不思議ちゃんは食べかけの照り焼きハンバーガーをくれた。

 私も、取られるように食べかけをあげた。


 そしたら、不思議ちゃんは、とってもニコニコしている。



「照り焼きバーガーを分け合ったら、私たち友達ですよ」


 そういって、笑う不思議ちゃんには、他の人には無い魅力を感じた。


「次来るときは、私がおごりますから、また誘ってくださいね」


 初めて、私の目を見て話してくれる不思議ちゃん。

 1秒にも満たない間見つめ合うと、ちょっと頬を赤らめて、すぐにそっぽを向いてしまった。


 もしかすると、不思議チャンはただ恥ずかしがり屋なのかもしれない。

 悪い子じゃなさそう。

 私と仲良くなるために、わざと奢らせたのかもな。


 ふふ。今度また、誘ってみようかな。


 そっぽを向く不思議ちゃんの目線の先に回り込んで、私は言う。


「私も、照り焼きバーガー好きになったみたいだよ!」

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