メイストームデー

『メイストームデー』というのをご存知でしょうか?

 日本語で言えば『五月の嵐の日』。


 バレンタインデーから、ちょうど88日にあたる、今日5月13日。

 5月のバレンタインデーのような日。


 この日は、別れ話を切り出しても良い日だとされているのだ。

 ほんわかして暖かさに包まれた春から、急に来る嵐。

 そんな日なのだ。



 私にそれを教えてくれたのは、静香しずか


 いきなり私のところに来て、まくし立てるように話し始めたのよ。

「彼氏にフラれたらどうしようー! 私生きていけないよー。美玖みく助けてよー。私が彼氏にフラれないように祈って!」って言うから、何事かと思ったら、そんな日らしい。




「そんなので、フラれるわけないじゃん」

「けど、分からないんだよー……。あいつって、記念日とか大事にするやつじゃん。だから、今日みたいな日を目掛けて別れ話をしてくるかもしれないし。不安だよー……」


「はぁー……。あのね? 記念日を大事にするからってフラれてたら、彼氏君はいつまで経って結婚も出来ない人だよ?」

「え! 結婚! そんなのまだ早いよー! もう、何言ってるのよー。美玖みくったらー」


 なんか、機嫌が良くなってるし。

 恥ずかしがりながら、私の背中バンバン叩くし。

 しかも、強いし。

 痛いし。

 体育系の部活のやつは、じゃれつくの禁止した方が良いよ。


 まだ叩いてる。


 背中……。

 痛いし……。




 はぁ。こりゃー……、しばらくフラれないだろうな……。

 こんな頭がめでたい人いないよ……。


 静香は、背中を叩くのをやめてくれた。

 やっとだよ。まったく。



「そういえば美玖は、彼氏とどうなの?」

「い、いや、あれは彼氏じゃないから! ただの幼馴染!!」



 あたふたしながら答える。


「バレンタインデーに先輩にフラれてから、流れでダブルデートをしたりもしたけども。

 あれは、ただの腐れ縁なだけで……」

「ふふふ、顔に『好き』って書いてあるぞ! せきくん、最近カッコイイじゃん!」


 ……まぁ。勝手に思わせておこう。



 けど、そういえば。

 なんだか、最近そっけない気がする。

 ホワイトデーからの流れで、付き合っていることになってるかもだけれども。


 別に、私から告白したわけでもないし。

 ここを乗り越えれば、別れを切り出されそうとか言われても、乗り越える気も無いし……。

 まぁ、どうしてもって言われたら、無くはないけども。


 最近連絡もないし。

 忙しいだけなのかな。


 あっちが冷めたっていうなら、私は追わないし……。


「美玖、心の声、全部漏れてぞー」

「え、あ、あれ? ほんと? やだやだ……。けど、たまにメールを振り返ったりすると、なんだか、楽しかった思い出が蘇るみたいだし。楽しかったと思うし……」


 ――ピロン。



「あ、新着メールだ……。授業終わったから、会おうだって……」

「あぁー。じゃあ、ついに別れを切り出されるのかな? 律儀な奴だねー。別れる時も、直接言うのかな」



 なんともないと思ってたけど。

 意外とショックなのかな……。



 ――ピロン。


 目頭が熱くなるって、こういうことかな……。

 涙で前が見えない……。



「私が変わりに見てあげるね。なになにー。ふむふむー。ははは」

「何笑ってるのよ。こっちは真剣なのに……」



「そのメール見てみなよ。次のデートの誘いだったよ?」

「へ?」



 五月の嵐は、突然来て。

 そして、突然過ぎ去っていく。


 過ぎ去れば、なんてことは無かった暖かい日がまた来るんだ。


「次の記念日は、恋人の日だね!」


 お調子者の静香のせいで泣いちゃったけども。

 まだ、関と付き合えるんだ……。

 嬉しいな……。


 メイストームっていうのも好きかもな……。

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