ヨーグルト

 乳製品っていいよね。

 特に私は、ヨーグルトが大好き。


 机の上に置いたヨーグルト。

 400gの大容量。

 それが、お弁当の後のデザートなの。



 こんなに食べても太らない。

 まさに、天使の食事だよね。ふふふ。



 このヨーグルトは加糖タイプだから、何も入れなくても甘くておいしいんだ。


 私はヨーグルトの蓋を開ける。買ったばかりだから、水分が分離していない。

 平らな表面がプルプルと揺れて見える。


 白い。

 真っ白。

 夏なのに、冬の雪原にいるみたい。

 ヨーグルトをすくい上げたら、そこに雪うさぎちゃんとか出てくるかもしれない。


 これを見ているだけで幸せ。



 ひとすくいして、口に運ぶ。

 ほのかな甘味が口いっぱいに広がってくる。

 これは、淡い恋と同じ味って言っても過言ではないよ。

 ほのかな甘さ。


「はぁ……。ヨーグルトって、ボーイミーツガールしちゃうゲレンデだよ」

「え……? 美和子みわこって、年いくつだっけ? 古くない?」


「いや。古くない! ゲレンデはいつの時代だって、ボーイミーツガール!」


 佐和子さわこは、こちらのことを冷ややかな目で見ているけれども、気にしない。

 これが私の幸せ時間なの。


「あぁー……至福ー……」

「至福一って口に出す人なかなかいないよ。そんなに美味しいの?」


「もちろん。食べてみる?」

「うん」


「じゃあ口開けて」


 私は、ヨーグルトをすくって、佐和子の口に運ぶ。


「あーん」


 ヨーグルトを口に含むと、佐和子の表情が変わるのがわかる。

 頬が少しずつ緩んでいく。

 かと思うと、段々と口角が上がってくる。



 甘いものって、食べると笑顔になっちゃうんだよね。さっきまで、私の行動に怪訝な顔をしていたのに、もうすっかり笑顔になっている。


「なにこれ、美味しい!」

「でしょ?」


「もう一口ちょうだい?」

「だーめ」


 今度は佐和子にはあげずに、私の口の中へヨーグルトを運ぶ。

 この美味しさ、やめられなくなっちゃうんだよね。

 けど、だからこそ私は、400gの大容量を買ったんだ。これで一人用なの。


「佐和子も今度買うといいよ」

「ケチー! それすっごく美味しいのに!」


 ふふ、佐和子の悔しがる顔を見るのも、乙な気分。


「え、何が美味しいって?」


 そんなセリフとともに、近くにいた関口君が寄ってきた。

 関口君は元来の明るさに加えて、髪の色がそれを強調しているみたいな人。


 佐和子が関口君に説明する。


「美和子の持っているヨーグルトがすっごい美味しいんだけどさ、くれないんだよ」


「え、何それ? 俺も食べてみたいんだけど」


 期待に胸を躍らせたような顔をしている関口君。

 口を開けて待っている。


「いや、スプーンは一個な訳ですし。食べかけのヨーグルトを男子と分け合うっていうのは、なんだか抵抗あるといいますか……」

「大丈夫! 俺気にしないからさ!」


 いや、私が気にするわけで。

 けど、そんなことは言えなくて。

 私は、流されやすい人なのです。


「じゃあ、手出して」

「はい」


 ペットの飼槍みたいにして、関口君へヨーグルトをあげた。これがせめてもの妥協点。

 それでも気にせず、関口君は一口で食べる。


 そして、ゴールデンレトリーバーみたいな笑顔を見せてきた。

 その笑顔がとても眩しく感じた。


 ヨーグルトは、ボーイミーツガールなんて言ったけれどもさ。どちらかというと、ガールミーツボーイかもしれない。


「お! これ、すげー美味しいじゃん! 俺、このヨーグルト好きだ!」

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