紙飛行機
白い紙飛行機。
青い空の中を飛んでいく。
紙なのに。
もろいはずなのに。
なんでそんなに芯を持って、飛んでいけるんだろう。
まっすぐ飛んでいった紙飛行機は、中にある池へと落ちていった。
音も立てずにスっと入っていった。
紙飛行機の綺麗な白色が、汚れてしまったようだった。
私は、ぼーっとして紙飛行機の最後を見ていると、男子がやってきた。
普段は目立たないような男子。
私は話したことが無いかもしれない。
眼鏡をかけていて、部活動は何か入っているんだっけかな?
記憶にもないくらいの男子。
成績だって、特に良いっていうわけじゃないし。
本当に、ただただ地味な男子っていうイメージのある子。
その子が、私に話しかけてくる。
「このあたりに、紙飛行機飛んでこなかったですか?」
何だか必死になっている。
紙飛行機なんて、なんでそんな必死に探すんだろう。
私は、見たままを答えた。
「さっき、池の中に落ちていきましたよ。そこのところ。今沈んでいる最中だよ」
「えっ!」
男子は驚いて池を見た。
紙飛行機を見つけたようで、慌てて池の方へと駆けていった。
少し走ったところで、私に対して「ありがとうございます!」って大声でお礼を言ってくれた。
律儀にお礼を言う子らしい。
けど、それよりも、紙飛行機が大事だったのだろう。
男子は、上履きと靴下を脱いで、制服のズボンの裾をまくると、池の中へと入っていった。
かろうじて、まだ見えていた紙飛行機の片翼をつかむと、紙飛行機を池の中から取り出した。
急いでいたからだろう。
ズボンは濡れなくても、白いワイシャツに池の水が跳ねて、黒いシミになっていた。
それでも、紙飛行機をとれたことに、満足そうに笑っていた。
男子は、池から上がると、そこで止まってしまった。
池の方から、私に話しかけてくる。
「あ、あのーー! すいませんー! タオルとかって持っていないでしょうかー?」
周りに人がいないから、私に話しているっていうのはわかるけれども。
距離が遠いから、答えるのも億劫。
なんでもない昼休みを満喫していた私にとっては、いらないイベント。
私は、池へと近づく。
そして、凍らしたペットボトルを包んでいるタオルを、男子に渡した。
「ありがとうございます」
何の関係も無い男子。
今まで話したこともなければ、これから話すこともなかっただろう男子。
せっかくの昼休みをつぶされて。
せめて、理由くらい聞いてやらないと気が収まらない。
「君、なんでそんなに、紙飛行機を大事にしているの?」
私の質問に、男子は少しはにかんだ。
「この紙、ラブレターなんです。書いたはいいけれども、渡せなくって」
「なんで? 渡したらいいじゃん。せっかく書いたのに」
「渡そうとした人。彼氏がいたんです。ちょうどこのラブレターを渡そうとしていたところで、彼氏とキスし始めて……」
うつむき加減になる男子。
「ふーん」
「聞いておいて、興味なさそうですね」
「君の恋路なんて、まったく興味ないからね。ただ、紙飛行機が飛ぶ様は綺麗だったよ。いいもの見せてくれてありがとう」
男子は少し涙ぐみながら言う。
「僕の失恋も、何かの役に立てていれば、少し報われた気がします」
私の潰された昼休み。
それだけでも嫌だったけど、しんみりしたまま終わるのも好きじゃないんだよね。
私は、その男子に伝える。
「また失恋したら、紙飛行機投げたらいいよ。私が見ててあげるから。私、君の作る紙飛行機好きだよ」
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