髪ゴム

 剛毛は遺伝する。

 母親に似た私は、髪質がかなり太い。

 そして、すごく髪の毛が固い。


 それが私の悩みだったりする。

 髪が太いと、まず乾かすのに時間がかかる。

 風呂上がりのドライヤーとか、どのくらいかけても全然乾かないの。

 スポンジなんじゃないかって思うくらい。

 なんでこんなに、水を吸っているんだよーっていう。


 それで、乾かし漏れがあった日は大変で。

 次の日の寝癖が固い。


 パーマを当てたの?っていうくらいの癖が残るの。

 そんな日は、朝に一度シャワー浴びないと直らないし。

 剛毛は、とてもつらいんだよ。



 そして、日中帯に起こる事態もあって。

 髪ゴムは、よく切れるんだ。


 髪ゴムが耐えてくれないの。

 マッチョな人が着るTシャツがパンパンになるみたいに。

 胸の大きい子が、Sサイズの服を着るみたいに。


 私の髪ゴムは、常にパンパン。

 はちきれそうな状態をいつも髪ゴムは耐えてくれるの。

 いっそ髪ゴムがいらないように、『ボブヘア』とか『ゆるフワヘア』にしようかなって、思うこともあったんだけれども、美容師さんには「ちょっと難しいですねー」ってゆるーく断られちゃうんだよ。


 だから、私には髪ゴムが欠かせない。



 今日は、ちょっと髪ゴムが緩い気がしたけれども、特に予備も持たずに出てきちゃったんだよな。

 登校中は、何とか耐えてくれたけど。


 学校について、席に座った瞬間に、私の髪ゴムは断末魔を上げた。



 ――ブチン!



 やっぱり、耐えられなかったか……。

 こればっかりは、しょうがない。

 今日一日は、髪ゴム無しで授業受けるか。


 外は、ちょうど雨が降って来ていた。



 そうか、雨が降っているから湿度でやられたのかもな。

 雨の日の私の髪の毛は、より一層膨らむから。


 ぼわぼわと膨らんだ髪の毛。

 これで、授業に入っちゃうとすごい不快だな。

 もう、私の髪質どうなっているの!


 私は、切れて落ちてしまった髪ゴムを拾う。

 昔の人が、下駄の花緒が切れたら縁起が悪いというように、今日は良く無いことが起こるかもしれない。


 拾ったところで、後ろの席の博美ひろみちゃんと目があった。


毛利もうりさん、髪ゴム切れちゃったんですね。良ければこれ使いますか?」


 そう言って、博美ちゃんは可愛いアクセサリーがついた髪ゴムを渡してくれた。


「いや、私が使っちゃうと、すぐに着れちゃうかもだよ……」

「大丈夫ですよ。私、同じのいっぱい持ってるから」


 そう言って、博美ちゃんは自分に付いている、左右のおさげ髪についている髪ゴムを見せてくれた。


「毛利さんも付けたら、お揃いだね」


 明るく笑う、博美ちゃん。

 その顔がすごく可愛いと思った。


 私は、頬が熱くなるのを感じながら、髪ゴムを受け取った。

 そして、一つに束ねた。


「毛利さん、似合いますね。可愛いですよ」


 そうやって、後ろから囁いてくる博美ちゃん。


 私は、髪ゴムを少し触りながら、嬉しさを噛みしめた。

 この髪ゴム、博美ちゃんとお揃いだ。ふふ。

 私、好きかも。

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