2024年5月

恋のぼり

 GWは、とても気持ちがいいの。

 なんて言ったって、いつまでもベットの中にいて寝ててもいいわけだし。

 家族もみ一んな休みだから、起こされるってこともないし。


 それでいて、気候も暑すぎず、寒すぎず。

 ずーっと寝てられる。

 すごーーーく気持ちいー。


 そんな朝の静寂を壊すやつが来た。


「おーい。遊びにいこーぜー!」


 家の下から叫んでるんだな。

 中学生にもなって、外から呼ぶなんて。


 この声は、あいつ以外にいないな。

 私は窓を開けて答える。


「うるさいなー、大輔!! こっちは寝てるんだよ!」


 大輔に大声で言ってやったのに、大輔は笑ってる。


「はは。起きてんじゃん」

「今起こされたんだよ! バカ!」


 二階の窓から話すから、自然と声が大きくなる。

 そうしないと聞こえないから。


 声を張り上げたから、しっかりと目が覚めてしまった。

 はぁ……。


「それで、なんの用なのー?」

「暇してるんだろ? こいのぼり見に行こーぜ!」


 さも当然のような言い方で。

 大輔ニコニコとしてる。


「……は?」


 中学生だよね。


「あぁ、伝わらないか……。こいのぼりの鯉を漢字で、恋愛の『恋』って書いて、『恋のぼり』っていうのがあるらしいんだよ! 見に行こーぜ!」

「な、なんで、そんなものを、あんたと見に行かなきゃ行けないのよ!」



「俺がお前を好きだから!」


 また、さも当然みたいな言い方をしてきた。

 笑ってるし。


 大輔って、そういうところあるんだよね。

 天然の女たらしというか。

 もしかしたら本当に私の事好きかもだけど、一番の理由はただ大輔が暇だから見たいっていうだけ。


「早くいこうぜ」

「わかったよ! 支度するから待ってて!」



 ◇



 私は、すぐに支度をすませて、玄関を出た。


「お待たせ!」

「遅いぞ! 行っちゃうぞ!」


 大輔は痺れを切らしたのか、スタスタと歩き出してしまった。

 まだ靴もちゃんと履いてないって言うのに。

 まったく。



 私は、大輔に追いつくように駆けていく。


「いつも、せっかちなんだから」

「しょうがねぇだろ。早くいかないと、恋始まっちゃうぞ!」


 大輔は早歩きから、少し小走りになる。

 私もそれに合わせて走る。


 走っているからか、段々と鼓動が早くなるのを感じた。


 心臓って、難しい奴だよね。

 勘違いしそうになっちゃうよ。


 恋が始まるっていう感覚って、こういうことなのかもしれない。

 そんなのしたことない私にとってはわからないけれども。

 私は、こいつのことが好きなのかもしれない。


 けどそれはないか。

 はは。


「恋のぼり、楽しみだな! 初めてだけど、お前も好きになると思うよ!」

「そうだね。私も恋のぼり、好きになると思う」

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