穀雨

 春の光がまぶしい。

 段々と夏に向かっているんだなって感じる。

 夏になると、目に入ってくる照度が全然違うんだよ。

 ルクスで表すと、春は5万ルクスくらい。夏は10万ルクス。


 ふふふ。

 物理の時間に、物理の雑談を挟んでくる先生が言ってたんだ。

 その先生の頭には、毛が無くてね。

 それで、先生の頭が光るのは、月と一緒だーって言いだしたの。

 太陽の光があって、初めて輝けるんだって。


 物理の授業よりもそっちの方が私は興味があってね。

 それで、先生が一番輝けるのは夏なんだって。

 季節ごとで太陽の光って、照度が違うらしくて。

 夏の日差しがやっぱり一番明るいって。


 先生が頭に汗をかくから、光るんじゃないですかーって言ってる子もいてね。

 それも、一理あるって。


 先生は真面目だから、きちんとそれも計算に入れ始めて。

 結論は、やっぱり夏が一番輝く。

 それも、夏の海が一番だって。


 汗をかきすぎても、それは光にくい。

 程よく汗を流せて、そして、一番日差しが強い場所。

 海らしい。


 逆に、砂浜が眩しくて、先生の頭は目立たないけどね。

 そんなオチを言われて。


 私は必死にメモしてたの。

 ふふふ。

 隣のクラスの子に話そうっと。



 私は教室の窓際に座り、外を見やる。

 今は、照度が段々と大きくなる季節。

 穀雨の季節っていうらしい。

 二十四節気っていう、一年を二十四の季節に分類したうちの一つ。

 雨で桜も散り、そろそろ夏がやってくる季節。


 新緑が目に鮮やかだ。

 これも、緑色の光の反射率と、照度の関係なんだよね。

 葉っぱが輝く季節。

 それってなんだか素敵だな。


 この時期が私は好き。

 世界が息を吹き返すようで、何か新しいことが始まる予感がする。



「ねえねえ、翔子しょうこもそう思わない?」


 隣の席の友達に話しかける。

 彼女はいつも通り、明るく笑ってる


「うん、確かに!」


 物理の授業が終わり、私は友達と一緒に学校の中庭に出た。

 穏やかな春の日差しの中、私たちは葉桜となった桜の木の下で布を敷き、お弁当を広げる。

 私のお弁当箱には、母が作ってくれた桜餅と、春野菜の天ぷらが入っている。

 桜餅の甘い香りと、天ぷらのサクサクした食感が、春の訪れを告げる。


「美味しいね」


 私はうなずきながら、花が散ってしまった桜を眺める。

 桜の木って、花が咲いている時よりも、新芽が見える時が好きなんだ。

 生命力にあふれて、とても輝いて見える。


 春よりも、今の季節の方が始まりの季節って感じるんだよね。


 私たちは、笑い声を響かせながら、夏が始まりそうな春の一日を過ごす。

 穀雨の季節は、新しい始まりの象徴だって思う。

 春が終わる季節。


 それは、夏の前触れを感じられて、希望に満ちた時間。

 私は、穀雨が好きだな。

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