ボーイズビーアンビシャス

 新学期だからか、やる気にあふれた人が多い気がするなー。

 先生が黒板に書く字を一生懸命ノートに書き写している。


 やる気があるっていうのは、それはそれでいいんだけどね。

 頑張っている人って、カッコいいなーって思うし。


 私自身が、そのやる気が起きないっていうだけで。

 みんな、私の分まで頑張って一っていう思いだよ。


 私もノートを書き写していく。

 私の隣の席になった新木あらきも、新学期にあてられたうちの一人だった。

 やる気に満ちた目をしている。

 気合が空回りしないでいたら、いいんだけどね。


 新木は、前を向いて一生懸命ノートに書き写している。


「今年は、赤点取らないように頑張ってくぞ!」


 それ自体はいいことだって思うけれども、この授業の前後で予習復習も大事なんだよね。

 多分、新木はどちらもやってないんだよねー……。


「新木、頑張っているね。ちょっと後で私に教えてよ」

「ん! どういうことだ? 授業中に頑張らないとだろ!」


 うーん。

 やっぱり気合い入りすぎだよね。

 もっと肩の力を抜いてって言っても、こいつの場合はダメそうなんだ。


 力を抜くと、いつも赤点だったし。

 かといって、力を入れても、赤点だったし……。


 もう少し上手くやりなよって言っても、できないの。

 不器用な奴なんだよ。

 私は、新木に嘘をつく。


「私さ、ちょっとお腹痛くて集中できなくって。新木が今聞いて、後で私に教えて欲しいんだ」

「なにっ? そういうことか! そういうことなら、俺に任せておいたら大丈夫だぞ!」


 こいつに復習しろ一って言っても、やらないっていうのは知ってる。

 けど、人のためには動くんだよ。

 だから、こういう風にして、強制的に復習させるために、私に学んだことを言わせるようにするんだ。

 そうすることで身に着くはずだから。


 まぁ、やる気のない私の復習としても良いだろうし。

 ウィンウィンってやつだと思うんだ。


「辛かったら、保健室に行くんだぞ?」

「うん、ありがとう」


 なんだかんだ、新木って、いいやつなんだよね。

 こいつが、赤点取らないように頑張るっていうなら、手伝ってやろうかなって。

 やる気のない私にも、そのくらいは手伝えるかなっていう。


 ……断じて、こいつのことが好きな訳じゃない。

 こんな頭悪い奴は、嫌だし。


 新木は、カバンをごそごそと漁りだした。

 すると、私の机の上に水筒を置いてきた。


「これ、まだ飲んでないからやるよ。温かいお茶が入ってる」

「……ん?」


「腹痛いんだろ? これ飲んで温まれよ」

「……あ、そういうこと。ありがとう」


 悪い奴ではないんだよ。

 むしろいいやつだよ。

 新木はまた前を向いて、半分は私のために一生懸命ノートを写している。


「……ポーイズビーアンビシャスだね」

「うん? なんだ、その英語? 俺が英語苦手なの知ってるだろ」


「はぁ……。知らないの? そのくらいわかっておきなよ。励ましの言葉だよ。私の好きな言葉!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る