ディズニーランド

 電車に乗っている時から、それは見えるの。

 電車で橋を渡ると見えてくるお城があるの。

 お城って言っても、日本のお城とは違うよ?


 魔法にかけられたお城があるの。

 電車に乗っている人は、皆魔法にかかったみたいで。

 そのお城を見ると、皆口々にテーマパークの名前を呼ぶの。


 それも、すごく幸せそうにして言うんだ。

 それって、もう魔法にかかってるよね。


「そういえば、このテーマパークって、今日が開園した日なんですか」

「そうそう。だから誘ったんだろ?」


 私の部活の先輩。

 先輩って言っても、文化部に上下関係なんてなくて。

 むしろ、漫画研究部の先輩って言うと、逆に下に見えてくるというか。


 趣味も丸わかりだから、尊敬の念はゼロを下回っている。

 マイナス方向に尊敬って、それってもはや、蔑んでますよね。

 はい。蔑んでます。


 私は、脳内の先輩と会話して、からかっておいた。


「ディズニーランドっていいよな。やっぱり電車の中からディズニーランドホテル見ると、テンション上がるよな!」

「先輩って、なかなかですね。ディズニーランドとか好きだったんですね。それも、私よりもすごく好きそう」


 慌てて両手を身体の前で振る先輩。


「いやいやいや。そりゃあ、デートに行く場所くらい、直前に調べたりするだろう。今日が特別な日だと思ったら、なおさら美紀みきが嬉しがるだろうなって」

「えー……。本当にそうなんですか? 先輩って、数か月前から、この日は空けておけよーって言ってなかったでしたっけ」


「い、いや。そんなことはないだろ。お、俺がこの日を知ったのは数日前だしさ……」

「うーん。疑わしいですね」


 少しカマをかけてみよう。


「先輩! あんなところに、何やらマウスが見えましたよ! あの屋根のところ!」

「なになに! 本当か! どこどこどこ? そんなところにいるなんて、すごくレアだよ! 絶対見たい見たい!」


 身を乗り出したり、しゃがんだり。

 人の間からどうにか何やらマウスを見ようと頑張っている。


「えー、どこどこ? マジでこれ見逃したら、俺一生後悔しそう! どこどこ?」

「……先輩。やっぱりそうじゃないですか。ディズニーランド好きでしょ」



「えっ? そんなことより、何やらマウスがどこにいるか、教えてくれよ。頼む! お願いだ! なんでもする!!」


 先輩は私の両手を握って、頭を下げて来た。


「頼む!!」


 ……私もディズニーランド好きだけども。


「なんでも奢るよ! バケット付きのポップケーンでも、スーベニアカップ付きのゼリーでも。スーベニア付きのケーキでも!」

「先輩って、スーベニア好きなんですね」


「そりゃあ、全部集めるだろ! そんなことは良いから、早く教えてくれ!」


 これはもう、相当好きなんだな……。

 もう、認めたらいいのに。


「先輩って、好きなんですね」


 私のこと肩を揺すりながら言ってきた。


「あぁ! 大好きだよ! 大好きだ! もうそれ以外考えられないよ! ディズニーランドが大好きだよ!」

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