ガッツポーズ

 私の名前は美幸みゆき

 高校二年生。

 女子高生をやってます!



 ……こんな自己紹介をして、失敗したのは昨日のこと。

 同じ学年の子は、みんな女子高生だよね。はは。

 そこが、ウケると思ったんだけどな。

 学年の初めにやるギャグじゃなかったか……。

 失敗、失敗……。



 それよりも、自己紹介で名前のことを紹介すればよかったかな。

 親が付けてくれた名前は気に入っているんだけれども、名前負けしちゃってるんだよ。


 名前に『しあわせ』という字が付いているのに、私は幸が薄くてね。

 よく鳥に糞をかけられたりするんだ。


 こんなエピソードも微妙かな……。

 まぁ、私の打率は低いからね。

 それでも、打席に立ち続けるんだー。



 学年の最初。

 今日はクラスの席替えはじゃんけんで決めることになった。

 席替えの方法は、民主主義的に多数決で決めようとなり、ジャンケンで勝った人が好きに席を選ぶという方法になった。


 ジャンケンに勝てば良いのよね。

 私の狙いは、窓際の一番後ろの席。

 通称「主人公席」。

 よくアニメで主人公がいるから、私はそう呼んでいる。

 なんで主人公席がいいかって。

 なぜなら、そこからは校庭の桜が見えて、春の風が心地よく吹き込むから。

 最高の席なの。


 全員でジャンケンするのは非効率だからと、先生と生徒でジャンケンをする形になった。


「じゃあ行くぞー! じゃんけん!」


 先生の声が教室に響く。


「ぽい!」


 私の突き上げたグーは、先生のビクトリーポーズに勝った。


「やったー!」


 喜んでいるのは、私と佳奈かなくらい。

 グーを出した生徒は、二人だけだった。


 こんなすぐに少なくなるとはね。

 残った二人でジャンケンをすることになった。


 多分、佳奈も主人公席を取りたいはず。

 ここは、絶対勝つしかない。


 クラスで一番の運動神経を持つ佳奈。

 彼女との勝負はいつも厳しい戦いになるんだ。


 でも、今日は違う。

 私は出す手を決めている。

 これで、絶対に勝つんだ。


 私が手を挙げて準備をすると、佳奈も手を挙げた。


「「最初はグー!」」


「「じゃんけんぽん!」」


 私たちの手が宙に舞った。



 佳奈の手はチョキ。私の手はグー。



 勝った!!


 私は思わずガッツポーズをしてしまった。

 ジャンケンで出した方の手とら違う方の手もグーに握って喜んだ。


「やったー!!!」


 私の周りから、拍手が起こる。


 ガッツポーズ。

 それは、小さな勝利を全身で表現する行為だ。

 この瞬間は、私が主役なのだ。


 私は主人公席を選ぶ。

 新しい席に座り、窓の外を見た。

 そこには、桜が咲き誇り、新しい季節が始まるのを告げていた。


 窓の外へ向かって、ガッツポーズをする。

 主人公の勝利のポーズ。

 ガッツポーズって好きだな。

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