合鍵

『置き勉』という言葉をご存知でしょうか?

 私は教科書を全部学校に置いているんです。

 それがとても楽で楽で。

 女子高生に教科書は重いって。


 iPad導入を求めますよ。

 そう思いますよねぇ。



 けど、そんなことがすぐできる訳もないので。

 私は教科書を学校に置くことにしています。


 私の高校には一人一人、個人ロッカーがある。

 そこに鍵をつけて管理できるようになっている。

 友達もだいたいが、置き勉しているの。


 ロッカーは、教室のすぐ外の廊下に並んでいて、授業の前になると、ほとんどの生徒がロッカーに教科書を取りに行く。

 古い金属製のロッカー。


 あれ? 開かない。

 ロッカーの鍵かけてたっけな?


 南京錠がしっかり掛けられていた。

 まぁ、無意識のうちに閉めてるのは、良いことかもだけどね。


 ……あれ?

 ……鍵がない?


 いつもポケットに入れてるはずが、そこに無い。

 どこやったっけな?


 カバンの中だったかな?

 そんなことを考えていると、チャイムが鳴ってしまった。



 ――キーンコーンカーンコーン。



 教科書なんて学校に置いているから、授業で困った事なかったのに……。

 うぅー……。


 この鍵さえ開けば……。

 ロッカーを無理やり開けようと、南京錠をガチャガチャと動かしてみるけれど、開くはずもなく。


 うー……。

 しょうがないから、教科書は隣の人に見せてもらうか……。



 教室に入ると、先生は既に来ているようだった。


 急いで席に着く。

 すると、隣の席の森田もりたが話しかけてきた。


「どうしたんだ?」

「いやね。ちょっと、教科書が取れなくなってて……」


 私の返答が理解できなかったのか、森田は聞き返してきた。


「……は?」

「だから、教科書見せて欲しいです」


「まぁ、いいけど」


 森田は、渋々といった感じで教科書を見せてくれる。

 やっぱりこういう時は、素直にお願いするに限るね。



「けど、その言い訳なんだよ。忘れたなら忘れたって言えばいいのに」

「いやね、忘れてはないんだよ。教科書はロッカーに入ってるんだけれども、鍵無くしちゃって開かないんだもん……」



 森田は納得したようで、明るく笑った。

 その後、何かを思いついた顔をした。


「ふーん。安い南京錠だと、他のやつの鍵でも開くって言うぞ。俺の使ってみる?」

「え……、いやそれは、なんか合鍵みたいで嫌だな……」


 森田が見せてきた南京錠の鍵は、確かに私の鍵に似ている気がした。


「なんか、見た目も似てるけれども、これ、本当に一緒かも……」

「はは、それなら、どちらかが鍵を忘れても使えるな! やってみてくれよ!」


「いや、やだよ。やだやだ! 森田と合鍵なんて、絶対やだ!!」

「ははは」


 森田は笑うと、私に鍵を渡してきた。

 渡すとすぐに、前を向いてしまった。


 何かを決めたような横顔をしてる。

 意外と森田って、カッコイイのかも……。


「じゃあ、やるよ。俺の鍵。俺の方が南京錠変えておくからさ」

「……いや、そこまでしなくてもいいよ……。別に、そんなに嫌いじゃないよ……合鍵。便利だから少し好きかもなとは、思ったよ。うん……」

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