大仏

 春の鎌倉。

 今日はお父さんと、遠足に来たのです。

 春休みも終わるっていうので、最後の思い出作りってことで。


 そう入っても、毎年鎌倉には来ていたりするけれど。

 けど季節が違うんです。

 この桜が咲くような季節に、鎌倉。

 すごく良いです。


 もちろん春にも来たこともあったりするけど。

 春と言っても、桜が散った後の五月くらいにハイキングで来たり、六月にアジサイを見に来たりするくらい。


 桜が咲く時期に来たのは初めて。

 鎌倉って、こんなに桜が咲いてるスポットがあったのかーって思ったよ。

 すごく綺麗。


 江ノ電っていう電車に乗って、目的に向かう。

 ゆったりと街の中を走っているんだ。

 ガタンゴトンと、揺られていく。

 進む先に、桜が咲いてるスポットが何個もあるの。

 桜の中を進む電車って、とっても素敵。

 桜のゲートを何個も何個も通って、御伽噺の世界に通じていくみたいな。

 そんな風に感じちゃう。


 私が一生懸命窓の外を眺めていると、お父さんが声をかけてきた。


「沿線沿いにこんなに桜が咲いてるなんて知らなかったな、小春こはる

「お父さんでも知らないことがあるんだ。すごく綺麗だよ、桜!」


 お父さんと二人で微笑みながら、窓の外を眺めていた。

 二人で電車に揺られて、まったりと。

 それだけでも楽しい思い出になってるなって思ったよ。



 電車は、ゆっくり進んで、目的の長谷っていう駅まで来た。

 そこで、私達は降りた。


 電車を降りると、少し先に海が見える駅。

 そこに吹く風は、海から来る匂いがするの。

 少し潮の香りもして。

 春の海の風は、すごく心地良い。


 私は、身体いっぱいに海を感じていた。

 手を広げて深呼吸すると、全身が自然に包まれてるって感じる。



「小春、海も良いけど、今日は山の方だからな」

「はい! 分かってるよ!」


 山の方へ向かって、お父さんと歩く。

 車通りの多い道路もあるから、私はお父さんと手を繋ごうと、手を差し出した。


「そうだな。危ないから手を繋いだ方がいいな」

「当たり前だよ! こういうところは手を繋いで歩けってお父さんが教えてくれたんだからね!」


 私がそう言うと、お父さんは笑っていた。

 怒られてるのに笑うなんて、変なお父さん。


 春だから、頭に花でも咲いちゃったのかな?



 私は、お父さんと手を繋いで歩く。

 春の桜が咲く中の道。


「もう少しだから、頑張って歩こうな」

「私まだまだ歩けるよ! 子供じゃないんだからね!」


 そう言っていると、目的地が見えてきた。

 ここに来ることが目的だったの。


 お父さんに、入場券を買ってお寺へと入る。


 すると見えてくる。

 桜の花に隠れて、大仏様が見えるんだ。



「どうかな、小春。この季節に見る大仏様もなかなか良いだろ?」

「うん! とっても良いよ! 桜も見えて。大仏様も見えて。なんて最高なんだろうね」


 私は、自分では抑えきれない笑顔になっていたと思う。

 そんな顔で、お父さんに言った。


「大仏様って、お父さんみたいな顔してて、好きなんだよ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る