小田原城
春休みだから、少し小旅行がしたいなーって言ったの。
そしたら、連れて来て行ってくれてるのは、隣の県。
小田原です。
それ自体はすごく嬉しいの。
いつもは、近所に行くばかりだし。
そんなに遠くまで連れてきてくれるっていうのが嬉しい。
神奈川県は隣の県なんだけれどもね。
東京から小田原まで来るのって、かなり時間がかかってるんだよね。
確かに小旅行って感じで。
のんびりしながら、電車から見える風景を見てるだけでも楽しいんだ。
段々と都会から離れていって、見慣れない景色を見るってワクワクするし。
私はそう思うんだけどさ……。
けど、道中がね……。
拓也延々と『かまぼこ』の話をしてくるんだよ。
小田原って、なんでか『かまぼこ』が有名なんだって。
電車の中で教えてくれてるの。
もう、さすがに聞き飽きたよ……。
「いや、けどさ……。かまぼこって、そんなに需要ないでしょ……」
「いやね、小田原って言ったら、かまぼこだよ! すごく有名なんだよ」
ずっとこればかり言う和也。
ボックス席で、目の前で力説してくるの。
このやり取り、三回目だよ……。
「そんな力説されてもさ、私かまぼこって、そんなに好きじゃないし……」
「だけど、有名だからさ! かまぼこ作りに行こう!」
こればかり……。
興味無いっていうのに……。
「だからさ、他には無いの? 食べ物だけじゃなくてさ……」
「えっと……。他には……?」
和也は、予め自分で調べたこと以外は、全然知識が乏しいんだよね。
私とのデートを考えて、調べていてくれたのは嬉しいけれども、方向が少し違うんだよな……。
「なんか、海が近かったりするしさ。なんか観光スポット無いの?」
「うーんとね……」
手に持ったスマホで調べ始める。
私としては、特に何もなくても良くて。
二人で海眺めてるっていうデートでも大歓迎なのにさ。
そんなに、一生懸命何かしなくても、私は楽しいんだって言うのに。
「あ! あったあった! 小田原って言ったら、小田原城っていうのがあるよ!」
「ふーん。それ、観光スポットっぽいじゃん! どんな感じなの?」
私は、外観とか、そういう答えを期待していたのに。
和也からは、すぐに回答が返ってこなかった。
今一生懸命にスマホで知識をインストールしてるみたい。
私の質問は、今空中で止まってます。
早く受け取って欲しいな……。
しばらくすると、和也はハッとした顔をした。
きっと知識のインストールが終わったんだな。
「えーっとね、小田原城は戦国時代には北条氏の居城だったんだよ」
「……ふーん」
ただの知識の披露なんて楽しくないって私は思うよ。
和也の感想じゃないことは、ほぼ無価値。
「小田原城はね、江戸時代には幕府直轄地になったんだ」
「……で?」
「実はね、明治時代には廃城令で取り壊されかけたんだ。でも、市民の手によって守られたんだよ」
「……だから?」
「和也は、どう思うの?」
「え、いや、え? どうって?」
やっぱり私がリードしないとだね。
「私と小田原城見てみたいでしょ? どういうところかを知りたいんじゃなくて、どう楽しませてくれるかを知りたいの!」
私がそう言うと、和也は黙ってしまった。
なんだか、ちょっと泣きそうな顔してるし……。
別にこの小旅行自体を否定してるわけじゃないんだよ。
はぁ……。
「不安にならなくても、大丈夫だよ。私、ちゃんと好きだからさ……」
私がそう言うと、和也はなんだか少しニヤケていた。
「……何ニヤニヤしてるのよ。私は、城が好きだって話しただけでしょ!」
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