オカマ

 春は暖かい季節だから、色んな動物が活動的になったりする。

 冬眠から目覚めた熊も歩き始めるし。


 もしかすると、なにかに目覚める季節なのかもしれない。



 暖かいから、気持ちも陽気になったりするし。

 陽気になりすぎて、頭の中がお花畑みたいになるっていう人もいる。

 春って、変出者さんも街に現れたりする季節なんだよ。

 困っちゃうよね……。


 そう。私は困っちゃってるんです……。



 四月って陽気な季節で。

 一年に一度、嘘をついて良い『エイプリルフール』っていう日がある。

 午前中に楽しく嘘をついて、午後にネタバラシをするんだ。

 そういうのも、つい先日楽しんだ。


 それって、四月一日だけの特別なものだし。

 その日だけって思うじゃん。

 その日以外に嘘ついたら、ルール違反だって思うんじゃん。


 そう思ってるんです。



 近所の幼なじみの『お兄さん』だった人が、今朝見たら『お姉さん』になっていた。




 私は、何を言ってるのか。

 自分でも混乱しちゃうから、順を追って話すね。



 ◇



 春休みの間は、私がゴミ捨て当番なの。


 めんどくさいなーって思いながら、家のゴミを集めて回ってね。

 排水溝の生ゴミを取ったり、お風呂に詰まってる髪の毛の掃除もされてないから、私が取ったりしてね。

 家の中のゴミを集めて、集めて、まとめて。


 それで、ゴミ収集車が来る前に、家を出てゴミ捨て場へ来たんだよ。


 そしたら、見慣れないお姉さんがいたの。

 背も高くて、スタイルも良くて。

 すごく綺麗な人だなーって、見とれちゃってね。


 挨拶してみたんだ。


「おはようございます!」

「あら、どうしたのあらたまって? おはよう!」


 その声は、どこか聞いた事ある声で。

 この声誰だっけなーって考えて、パッと思い浮かんだ人がいたけど。

 やっぱり違うなーって思って、また考えて。


 私が考え込んでると、お姉さんが答えを言ってくれたの。


「私だよ。隣に住んでる、あきら!」

「晶さん、晶さん? 隣に住んでるのは、お兄ちゃんしか知らないけれども……」


「そうそう。その晶!」

「うーんと……、その晶……?」



 ◇


 そんなことがあって、目の前には、元お兄ちゃん。

 現在お姉さんがいるんです。


 困った……。

 春の暖かさに、私の頭もおかしくなっちゃったのかな……。


「どしたの? 人の事ジロジロ見て?」


 これは、どう答えたらいいものか……。

 これって、すごーーくセンシティブな内容だよね……。


 ちょっと不思議な感じだけれども。

 晶お姉さん。

 すごく綺麗だし……。



 晶お姉さんのことを、じーっと見つめてしまっていると、晶お姉さんの方からセンシティブな内容に触れてくれた。


「あ、この姿見るの初めてだっけ? 私、こっちが本当の姿なんだよ。可愛いでしょ?」

「……えっと、お世辞抜きで、すごく可愛いです」


「ふふ。ありがとう!」


 春の陽気がそうさせてしまったのか。

 晶お兄ちゃんは、お姉さんになってしまっていた。

 男らしさとも、女らしさとも違う。

 けど、晶お姉さんは、今まで見たことが無いような、とても満足気な顔で笑っていた。


 これが、本当の姿だっていう感じで。

 清々しくて。男にも女にも無い魅力が出てる気がして。

 それが、私には、とてもカッコよく見えてしまった。


 世間では、『オカマ』って言ったりするけど、それもいいのかもなって。

 私は、意外と好きかも知れない。

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