図書館

 図書館はお静かに。

 図書館によくあるポスターだ。

 それが、図書館の柱に貼られている。


 男の子が暴れているような絵で、周りの人が困っているように描かれている。

 図書館は本を読む場所だから。

 周りの人が静かに読めるようにっていうことで、描かれている絵。


 実際にそんな子は見たことないけれど。

 注意喚起するっていう意味で、大げさに書かれているのかもしれない。


 そんな張り紙の前で佇む静香さん。

 美術館で絵画を見ているみたい。

 ジーっと眺めて動かない。


 そんなに見入るようなものでもないんだけれども。

 静香さんって、すごい不思議な子なんだよね。



 静香さんがあの場所に立って、10分は経つと思う。

 私が気付く前から、あそこにいた可能性は高いから、もっと前から見ているんだと思う。


 何やってるんだろうな。

 声は発していないし、誰の邪魔にもなっていないのだろうけれども。

 私は気になってしまって、本に集中できなくなっていた。


 やっぱりちょっと聞いてこようかな。

 私が立ち上がろうと椅子を引くと、椅子はギギギと音を立てた。

 すると、静香さんはこちらを見てきた。


 静香さんと目が合う。

 少し距離があるから、ここから話しかけると大きい声になっちゃうし。

 静香さんの方へ歩み寄ろうかと考えていると、静香さんは自分の口元に人差し指を立てた。


 静香にしてくださいっていうポーズ。

 確かに。

 椅子の引く音は大きかったです。


 私は、ごめんなさいと顔の前で手を合わせて、頭を下げる。

 頭を上げると、静香さんは優しく笑って、うんうんと頷いていてくれた。


 良かった伝わったみたい。



 また無音の世界になった。

 とても静か。


 静香さんは、また柱に貼ってあるポスターを見つめ始めた。

 なんだか、それだけで絵になるような。

 何か物語を感じてしまうような姿。


 やっぱり、よくわからない。

 どういうことだろうな。


 静香さんに直接聞いてみよう。

 私は、音がしないように椅子を机へと戻した。

 静香さんの方へと歩いて行く。

 足音がしないようにゆっくりと歩いて。

 静香さんのそばに着く。


 そして、聞いてみる。

 もちろん小さな声で。


「静香さん、どうしてさっきから、そのポスターを見つめているの?」


 私が音がしないように近づいたからか、静香さんは私の存在に気付いていないようだった。

 まだポスターを見つめている。

 静香さんとポスターの間に手を入れて、振ってみる。


 私が話しかけたんだよーっていう風に。

 そしたら、静香さんは気づいてくれた。


「そのポスターに何かあるの?」


 今度は違う聞き方をしてみた。

 そうしたら、答えてくれた。


「静かな図書館を守ってくれているみたいでいいよね、このポスター。私ね、静かな図書館が好きなんだ」

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