ランドセル

 勉強机に置かれた、赤いランドセル。

 六年間使った、私の相棒。


 役目を終えた私の相棒は、机の上で永い眠りに着こうとしているみたいだった。

 六年間、毎日毎日、私と一緒に学校に行ってくれたんだよね。


 このランドセルを眺めていると、いろんなことを思い出す。

 丁寧に扱っていたんだけれども、綺麗な状態は保てなかった。

 革部分には、使用感がとっても出ているんだ。


 私が尻もちをついて、転んじゃった時にできた傷もあるし。

 毎日給食袋を下げていたフック部分は、壊れちゃいそう。

 体操着とか、重いものを付けちゃってるのがいけなかったかな。


 よく今まで持ってくれたよね。

 ありがとう。


 リコーダーを無理矢理詰め込んでたからか、少し皺になった、かぶせ部分も思い出深いな。



 学年が上がるとアルトリコーダーも入れてたから、それで皺も大きくなっちゃってね。

 ランドセルも、私と一緒に歳を取っていったみたいだよ。

 皺の一つ一つに思い出があるもんね。


 毎日背負っていたから、肩ひもの所が一番色褪せている。



 私が六年間無事に小学校に通えたのも、君のおかげだよ。

 けど、今日でお別れだね。


 小学校を卒業すると、これを使うことはもうない。

 妹も自分のランドセルを持っているし。

 それも、妹が相棒として思い出を作ってる途中だからね。


 みんなそれぞれ、ランドセルを持っている。

 それで、いつの日か役目を終えるときが絶対に訪れちゃうから。

 名残惜しくても、別れが来ちゃうんだ。

 そういう時は、精一杯笑顔で見送ってあげないとね。


 まだ思い出が蘇ってくる。

 どんな時でもずっと一緒だった。


 友達と喧嘩した時でも。

 好きな子にフラれちゃった時でも。

 家に帰りたくないって家でしちゃった時でも。


 気付くと、私の目から涙が零れていた。



 一緒に小学校を卒業する子とは、中学校でまた会えるけれども。

 このランドセルは、もう終わり。


未来みく、ランドセル眺めてどうしたの?」


 お母さんが、ドアの入り口に立っていた。


「ちょっと、部屋に入る時はノックしてっていったでしょ!」


 西日が、私の顔を照らしてくる。

 見られたくない私の顔がお母さんに見えちゃう。


 部屋の中は、ランドセルと同じ、赤色に染まる。

 最後のお別れを言っているみたいに。


「そのランドセル、好きだったんだね」

「当たり前だよ。ずっと一緒だったんだもん」


 お母さんは、優しく微笑んで私の頭を撫でてくる。

 ……もう子供じゃないっていうのに。


「それじゃあさ、このランドセルをリメイクしようか」


 お母さんからの提案。


「リメイク?」

「そう。このランドセルをね、小さいランドセルに加工して、それで余った革は、小物の革製品に生まれ変わらせるの」



「……え、そんなことできるの?」

「ふふふ。未来がそんなに思い入れがあるなら、やってみようか」


「うん! ‌絶対したい!」


 六年間、私と一緒に過ごしたランドセル。

 もう眠りたいかもしれないけど、もっと私と一緒にいて欲しいんだ。


 そう思うと、ランドセルが返事した気がした。



 今まで以上に、もっと大切にするから。


 私が選んだランドセルだから。

 私の大好きなランドセル。

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