ミュージカル
「春のうららの隅田川ー♪」
音楽室に、一学年の全クラスが集まって合唱の練習をする。
大きい口を開けて歌うの。
それが楽しかったりもする。
友達よりも大きい口を開けて、友達よりも大きい声を出すの。
「ながめを何に、たとうべきー♪」
よしよし。私の方が大きい声が出たね。
少し嬉しくなって、ニコニコと笑ってしまった。
その時、先生が大きな声を出した。
「ちょっと、そこ! ふざけないで歌いなさい!」
どうやら、先生は私のことを見て言ってきているようだった。
先生とバッチリと目が合ってしまった。
私は、自分だと思ったから返事をした。
「……はい。すいません」
卒業生を送る会って言う名前らしいんだけれども。
毎年、卒業式の前の日に開催される会なんだよね。
卒業生に合唱を送って、それで小学校から中学校へ送り出してあげようという会なんだ。
それをするために、毎年この時期になると練習するの。
私も、お世話になった卒業生さん達に良い贈り物をしたいとは思うけれども、なんだか少しだけ堅苦しいというか。
音楽は、『音』を『楽』しむっていう漢字を書くんだよ。
だから、卒業生さんに対して色んな思いはあるだろうけれども、楽しく送り出してあげたいって思うんだ。
もちろん、ふざけた気持ちは無いの。
楽しい気持ちをあげたいっていうだけなのにな……。
私が怒られたのをきっかけに、みんながざわざわしだしてしまったので、先生は私に怒ったのと同じ調子で休憩を宣言した。
「少し休憩にします!」
ざわざわとしたまま、みんな休憩をしだした。
合唱の練習の合間に、みんな喉が渇いているのであろう水分を取ったりしていた。
そんな中で、私は友達と少し話す。
「私はさ、もっと明るく送り出してあげたいだけなんだよね」
「例えば、どういうの?」
私は、ワクワクしながら自分で考えた楽しい送り出し方を答える。
「例えばね、いきなり歌い出したりするとかが良いなって思うの」
ダンスを踊るように、ステップを踏んでみる。
そして、くるっとその場で一回転して、決めポーズをしながら歌う。
「卒業ー、おめでとうございますー♪」
友達は、ニコニコと答えてくれた。
「それ、おもしろいね!」
友達に分かってもらえたなら、良いかと少し満足した気持ちになった。
「音程なんて気にしないで、おめでとうって気持ちを込めたいんだ。やるのは難しいっていうのは思うんだけれども、ミュージカルっぽいのが良いと思うんだ」
「なるほど、なるほど! ミュージカルっていいね!」
話していると、先生が戻ってきた。
「気を取り直して、頑張りましょう! 綺麗な歌を歌って送り出してあげましょうね!」
落ち着いて考えれば、先生の言うことも分かる。
私のミュージカル案も、楽しいって分かってくれる友達がいたというのが、やっぱり嬉しかった。
私はふざけずに、ちゃんと歌う。
先生も、私を向いて、優しくうんうんと頷いてくれた。
ふふ。ミュージカルの良さが分かってくれる友達がいたから、良いんだ。
合唱も良いけど、私はミュージカルが好きなんだ。
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