国立公園

 春の息吹が満ちる国立公園。


 春の匂いってあるよね。

 なにの匂いかっていうのは、具体的に言えないけれども、春の匂いがする。



 桜の花びらが舞い、新緑が眩しい季節。

 私は、最近ハマりだしたカメラを手に公園の小道を歩いていた。

 ちょうど春休みに、写真のコンテストがあるっていうから、自然の美しさを写真に収めたいと思ってるんだ。

 この公園の美しさも多くの人に知ってもらえるチャンスだし、私この公演好きだからね。


 一人で来ても良かったけれども。

 一緒に着いてきたのは、幼なじみのあきら



 私が写真始めたタイミングで、彰も一緒に初めたんだよね。

 負けず嫌いなのか、なんだろうね。


 一人よりも二人の方が入賞確率が上がりそうだし。

 私の目的である、公園の魅力を知ってもらうのも二人の方が良さそうだし。

 一緒に付き合ってもらってるんだ。



「あっ、きれい!」


 私の目の前に広がるのは、野生の鹿が静かに草を食む光景。

 レンズから除きながら、ピントを合わせる。

 ぼやけて見えていた鹿が、くっきりとレンズの中に現れる。


 その瞬間に、そっとシャッターを切った。


 その一瞬。

 鹿と目が合い、まるで自然との対話を感じたようだった。


 鹿は、私が写真を撮ると、ゆっくり離れていってしまった。


 私だけが撮れた鹿を彰に見せる。


「うわっ! ‌すげーいいじゃん!」

「でしょ? ‌もっと良い写真撮ろう!」



 私と彰は俄然やる気を出して、公園の奥へと進む。

 奥に進むにつれ、川のせせらぎが聞こえてくる。


 川辺には色とりどりの花が咲き乱れ、水面には太陽の光がキラキラと反射していた。

 川辺に腰を下ろし、その美しい風景を写真に収める。



「こんな綺麗な景色を見たら、きっとみんなも公園が好きになるね」

「そうだな。俺たちはよく見る風景だったりするけどな。ここが一番綺麗だよな」


 彰と見る国立公園。

 ここが一番のお気に入りスポット。



 夢中で写真を撮っていると、ふと風が吹いた。

 風が桜の花びらを川面に連れてきてくれたようだ。


 その瞬間を逃さないように、シャッターを切る。

 シャッターを切る一瞬、一瞬で、見える景色が全然違う。

 シャッターを切るたびに、心は弾むように嬉しかった。

 私の知ってる景色が、ここ一番の綺麗な顔を見せてくれてるって思った。

 私と彰に向けて。




 私たちは、日が暮れるまで公園で写真を撮った。


 私のカメラの中には、公園の写真がいっぱい詰め込まれてる。

 全部をコンテストに出してしまいたいくらい、全て綺麗な景色。


「やっぱりさ、ここの景色っていいよな」

「そうだよね。私、ここの景色、今日切りとった景色。一生大事にしたいな」


 夕暮れ時だから、顔が赤く見えるけれども。

 別に深い意味は無い。

 ただ、私は思ったことを言っただけ。


「いつまでもこのままであって欲しいな。私、この国立公園好きだからさ」

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