サイコー

 高校一年生も、もう終わる季節。

 いつものように学校からの帰り道、イヤホンから聞こえるアイドルの歌声が私の心を踊らせる。


 私が憧れてるアニメ「サイド☆アイドル」に登場するサイコーなプロダクションのトップアイドルの男の子。

 名前は、テン君。

 そのキラキラとしたステージでの姿は、この世の全ての「サイコー」を集めたような存在。

 その歌声は、いつ聴いても私の心を踊らせてくる。



 あぁーーー……。

 テン君はいつ聴いてもサイコーだなぁ……。

 こんな風に、人を楽しくさせたり、幸せにできる人になりたいなぁ。


 私ね、実は、この曲踊れるんだよ。

 今のクラスでは、誰にも言ったことが無かったんだけどね。

 高校に入っていきなりオタクばれするのは、ちょっと控えたいかなって思って……。

 そのまま一年も終わりそうだけれども……。


 そろそろアニメのこと話せる友達とか欲しいな……。

 できれば、この曲踊れるくらいハマってる子でもいればなぁ……。


 この曲の振り付けはね、サイコーなプロダクションの頭文字を取ってきて、『三』と『一』と『五』を手であらわして、サイコーって歌うんだよ。

 手話みたいにしててね。

 こうするんだー。


 私は手で、三と一と五を作る振り付けをする。

 ここが、本当に最高なんだよね。



「……あ、あの」


 肩をトントンと叩かれた気がしたので振り返ると、なにか喋りかけてくる女の子がいた。


「……さっきの動きなんですけど」



 イヤホンをしたままじゃ、何を言ってるか分からなかったので、イヤホンを取る。


「はい? ‌何か用ですか?」


 誰だっけ、この子?

 見た事はある気がするけど……。


「……あ、あの。私、小野です。同じクラスの」

「あぁー。小野さん! ‌どうしたの?」


「……今のダンス。私も知ってます」


 小野さんは、そう言ってさっきの私と同じ動きをしていた。

 声は聞こえないまでも、すごく小さく口ずさんでいるようだった。


「……え、もしかして、小野さんも好きだったりする?」


 小野さんは、小さくコクコクと頷いた。

 私は、驚いて目をパチパチと瞬いた。



 こんなこと話せる人いなかったから、私は嬉しくなった。

 小野さんとは、あまり話したこと無かったのに、ついつい深入りするように聞いてしまった。


「誰が好きだったりするの?」

「……私は、テン君です」


「えーっ! ‌本当に!? ‌私もテン君推しだよ!」

「……そうなんですか? ……‌やったー」


 小野さんは、小さく微笑んで、小さくガッツポーズをした。

 控えめな子なのに、話したことない私なんかに話しかけるなんて、相当好きなんだろうな。


 ……この子となら、なんだか友達になれそう。



「小野さん、‌私も好きだよ。サイコーだよね!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る