ダンス

 私は、ダンスの授業が苦手。

 別に身体を動かすのが嫌いとかじゃないんだよ。

 スポーツもそれなりにできる方だって自負しているし。

 むしろ得意だよ。


 他の子よりも、足が速かったり、身長が少し大きかったり。

 体力だってあるし。

 だから、スポーツは好きなんだよ。


 けど、ダンスはちょっと苦手なんだ。


 それは、こういう授業だから……。



 先生は、近くにあった音楽プレイヤーを操作して、音楽をかけ始めた。

 音楽プレイヤーから、重低音が響くダンスミュージックが流れ始めた。


 そして、先生はハキハキとみんなへと呼びかける。


「じゃあ、皆さん。この音楽に合わせて、好きに動いてみましょう!」


 その言葉をきっかけにして、周りの子たちは本当に自由に動き出す。


 ステップを踏んでいる人。

 手をくねくねと動かしている人。

 キビキビと音楽のテンポに合わせて動く人も、カクカクとロボットみたいに動く人もいる。


 みんな本当に好きな動きをしている。



 それを見て、私は思うんだ。

 どうしてそんなに、自由な動きができるんだろうって。


「良いですねー。ちょっと音楽変えてみますよー」


 先生はそう言って、音楽プレイヤーを操作した。

 今度は、ゆったりとした音楽が流れてきた。


 音楽に合わせて、みんなもゆっくりと動く。



 くねくね動いてた人は、ゆっくりくねくねとしてみたり。

 ゆっくり動くのと早く動くのと、緩急をつける人もいたり。


 これって、どうやって考えているんだろうなって思うんだ。


 好きな風に動いても良いって言われても、私にはわからない。

 それに、変な動きをしてしまっても、恥ずかしいし。


 好きな話しをして下さいって言われるフリートークと一緒だよ。

 なにを話していいかわからないし。


 急に、私の趣味の話をして、それを否定されたら、立ち直れないのと一緒。



 体育の授業っていうなら、ある程度方向性を決めて欲しいよ。

 ボールをゴールに入れて、点数を取るとかさ。


 というか、ダンスをスポーツっていうならさ、『技』みたいなのを教えて欲しいよ。

 傍から見ると、ただの反抗期真っただ中かもと思いつつ。

 私は、動かないでいた。


 そうすると、先生が声をかけてきた。


目黒めぐろさん、何か動いてみましょ?」

「私、どう動けばいいかわからないです」


 私は、きっぱりと言った。

 先生は、そんな私に対して、ニコッと微笑むと言ってきた。


「最初は、そうだよね。それじゃあ、まずは先生の真似して動いてみようか? ‌それが目黒さんの特別課題ね」


「え、私だけの課題?」


 先生は、私の質問には答えずに、へんてこな動きをし出した。

 ダンスとは言えないような。


 手を身体の後ろに回して、そのまま股の間から出す。

 中腰になりながら、足首をつかむ。

 その変な格好になって、右へ左へ小さな反復横跳びのように動き出した。


「……せ、先生。その動き、気持ち悪いですよ」「ふふ。大正解。気持ち悪い動きのダンスだよ」


 先生はその動きをしながら、伝えてくる。



「ダンスってさ、自分が何を伝えたいかっていうことなんだよ。好きに動くっていうのは、自分の思いを好きに伝えれば良いっていうこと」


「……えっと。そうしたら、先生は、気持ち悪さを私に伝えようとしているですか?」

「本当は違うんだけども。とりあえず一緒にやってみて」


 私はそう促されたので、やってみることにした。

 私の特別課題らしいし……。



 私は、別に反抗期ってわけじゃないから。

 どうすればいいか分からなかっただけだから。


 先生の動きを真似してみる。

 動くタイミングも、先生と合わせてみた。


 ……なんだか、すごく気持ち悪い動きの気がしたよ。


 けど、しばらくやると、周りのみんなが集まってきた。


「目黒、それ面白いな」

「ははは。面白いー」

「どうやってやるの?」


 そう言って、みんな私の真似をし始めた。


 変な格好の動きでみんな揃ってる。



「……ぷっ」



 面白くて、少し吹き出してしまった。



 みんなでやると、少し楽しいかもね。

 私はみんなに、動くコツを教えてあげる。


「こうやって動くといいよ」


「おぉ! ‌さすが第一人者!」

「こうたね!」



 ……ダンスって楽しいかもな。



 そう思っていると、先生が私に聞いてきた。


「どう、ダンスって楽しいでしょ?」

「まぁ、少し好きになるくらいには、楽しい!」

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