お揃いのサンゴ

 春休み前の最後の日曜日。

 私は友達の美咲みさきと一緒に海辺の町にデートに来たんだ。


 ……えっ?

 女の子二人なのにデートっていうかって?

 別に深い意味はないよ。


 最近では、女の子二人でも、デートって呼ぶんだよ。ふふ。



 私たちは、高校二年生の最後を、思い出深いものにしようと計画していた。


 海の見える小さなカフェで休憩を取りながら、美咲は窓の外を眺めていた。

 海は穏やかで、水面には太陽の光がキラキラと輝いていた。



「海って、本当に綺麗だよね……」


 美咲はつぶやくように言った。

 なんだか、その言い方が少し切ないような、寂しいような。

 綺麗な物を見納めるような。


 せっかくのデートなのに、浮かない顔をしていた。

 私は、そんな美咲の顔を晴らしたくて提案してみた。


「じゃあ、食べ終わったら海行こう!」



 ◇



 カフェで食事を終えると、私たちは海岸沿いの散策を始めた。


 カフェからは、聞こえなかった波の音が耳元までやってくる。

 砂浜に打ち寄せては返す、心地よいリズムを奏でていた。


 砂浜を歩く。

 少し湿った音が二つ進んでいく。



 美咲は、足元に転がる小石や貝殻を拾いながら歩いていた。

 美咲が突然しゃがみこんだかと思ったので、慌てて駆け寄ると、美咲の目の先には小さなサンゴの欠片があった。


「わあ、きれい……」


 美咲は感動したようで、それを手に取った。

 サンゴは、まるで宝石のように手の中で輝いていた。


「これ、見てみて!」


 美咲は私に声をかけてきた。

 私もサンゴの美しさに驚いた。


「サンゴって、こんなに綺麗なんだね」


 美咲はサンゴの欠片を大切にポケットにしまって、目線を落として微笑んでいる。


「これは、二人の思い出だね……」


 別に私たち二人は、付き合ってるわけでも、これで別れるってわけでも無いのだけれども。

 美咲からは、なんだかそういう雰囲気がした。



 そういう雰囲気、私は違うと思うんだよね……。


 別に美咲が嫌いとかじゃないけど。

 しんみりするのは、絶対違う!


「私たちの付き合いは、これから先も続くでしょ! ‌クラスが変わっても、それでも一緒だよ!」


 私が急に大声を出したから、美咲は驚いた顔をしていた。

 私は追い討ちをかけるように言う。


「うじうじとか、しんみりするの嫌いだからね!」



 そうすると、美咲の顔はくしゃくしゃとシワが増えていった。


かえでは、いつもそうだよね。そういうところが好きだよ。私を元気にしてくれるところ!」


 私も美咲の笑顔が好き。

 恥ずかしくて、言葉には出さないけども。

 美咲を笑顔にしてあげたいって思う。


「じゃあさ、私の分もサンゴ見つけてよ! ‌二人で一緒に付けよう! ‌これからも友達っていう証としてさ!」


 私がそう言うと、美咲は微妙な顔をしていた。



「……ともだちか。私はもっと違う風に思ってるよ」


 波の音は思ったよりも大きくて、美咲の声をかき消していた。


「ね! ‌二人でお揃いなのはいいよね! なんだかカップルみたいで仲良さそうだもんね!‌」


 まだ夕方でもないのに、美咲の顔はオレンジがかっていた。


「……お揃いのサンゴ。やっぱり私好きだな。ずっと大事にするね!」

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