三姉妹

 春は、花粉症がひどい。

 そんな日には、私は家の中で遊ぶのだ。


 むしろ女の子が外で遊ぶなんて、あまりないかもしれないけれども。


 まだ寒い季節だから、コタツでくつろぐのが嗜好。

 それをわかっているのは、この家では私だけだろう。

 姉たちには、きっとわからない。


千秋ちあき、コタツでぬくぬくしてるんじゃないよ! 外で遊ぶぞ!」


 私の姉の夏美なつみねえ

 夏美姉は、無駄にアクティブだから疲れるんだよねー……。


「ほっといてよー……。私は、花粉症なの。外に出ると色々とやられるの」

「嘘をつくな。くしゃみも鼻水もしてるところ見たことないぞ!」


 私は、コタツの中に頭まで隠れて、答える。


「そうだとしたら、私は今日から花粉症なのー」

「む一、千秋! 本当の花粉症というものを見せてやるよ! 春香はるか一!」


 夏美姉は、台所にいる春香はるかねえを呼んだ。


「なになに? 私も暇じゃないんだよ。夕ご飯の準備しないとなんだよ」


 春香姉が、台所からリビングにやってきた。

 エプロン姿で、今日もきちんと家事をしている。


 春香姉は、毎日私たちのご飯を作ってくれる。

 親はいつも帰りが遅いから。

 それなのに、呼んできちゃって。

 夏美姉に、引っ掻き回されるんだよね。


「これを見てみろ。家の中でも完全防備な春香を!」


 確かに、春香姉は花粉症用のゴーグルをつけていた。

 口元にもマスクを着けている。

 それでも、なんだか目元は涙ぐんでいるようで、これが花粉症というものかと思い知らされる。



「春香姉、大丈夫?」

「うん。花粉症って、大変なんだよ。千秋も花粉症かからないように家で遊ぶといいよ」


「春香姉様。わかりました。私は、今日は家で遊びます!」


 私と、春香姉がそうやって話を付けたのに、夏美姉が間に割り込んでくる。


「違うでしょー! 元気なうちに春の屋外を満喫するべきなんだよー! 一緒に行こう千秋!」

「行かない、行かない! 私は、春香姉様と一緒に家にいるー!」


 そう答えると、夏美姉は難しい顔をした。

 ふと、テレビの所へ行ったかと思うと、何やら手に持って帰ってきた。


「それなら、これで決着をつけよう」

「何これ?」


 夏美姉の手に持っているのは、トランプであった。


「これで、私と勝負して私が勝ったら、外へ遊びに行くよ!」


「いやだよ。この勝負を受ける義理は無いもん」

「そうか。もし、私に買ったら、今日のおやつを全部千秋にあげよう」


「……それは、魅力的。じゃあ一勝負」



 ゴーグル姿の春香姉もリビングのテーブルの所に座ってきた。


「それなら、私も参戦したいな。花粉を持って帰ってくるのは嫌だし。おやつ欲しいし」

「よし決まりだ! じやあ三人のうちで勝った人が総取りだね!」


 こうして、私たち三姉妹のトランプ勝負が始まったのだ。

 三姉妹で、久しぶりに遊ぶ。


 ちょうど三つずつ年が離れている三姉妹。

 高校二年の姉の春香姉。

 中学二年の姉の夏美姉。

 私は小学五年生の千秋。


 こんな三姉妹。


 私と、春香姉は目を合わせてアイコンタクトをした。

 絶対、夏美姉には、勝たせない。


 そうやって、二人で合図をしていた。



 けど、久しぶりに、三人揃って遊ぶのは、楽しかった。


 三人で遊べる、三姉妹って好きかもだな……。

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