脱出

 補習っていうのは、成績が悪い子がやらされるもの。

 学校には、そんな行事がある。


 二月から三月にかけて、期末テストというのが行われる。

 一年間の総まとめのようなテスト。

 これが難しいのなんのって。


 一生懸命勉強しているような人でも、多くの人が赤点を取ってしまうようなテスト。

 背伸びして、少し偏差値の高い進学校に入学してしまった末路よね。


 私は、いつも補習ばかり。

 今回の期末テストについても、もちろん私は補習を受ける立場だ。



 いつも授業を受けている教室とは違う、あまり使われていない教室に集められて補修が行われる。

 学年中の人が集まるから、いつもの教室だと席が足りないのだ。


 そんなに補習受ける人がいっぱいるっていうのも、何か問題な気もするけれども。

 補習を受ける教室へと移動をする途中、芽衣めいに会った。


「芽衣も補習なの? ‌私もだよ」

咲良さらもなの? ‌お疲れ様だよ。なんで英語なんて、学ばなきゃいけないのかね」

「本当、そうだよね」


 補習自体は、そんなに厳しいわけではない。

 生徒の自主性を重んじる校風のため、補習に出席したという名前だけ書けば、成績に影響は無いのだ。

 追試の時に、ちゃんと点数さえ取れていれば良い。


 最初に先生が来て、補習の課題を配る。

 補習で実施する課題には、かなりの量があるので、補習として設けられている一時間では、だれも終われない。

 そうはいっても、みんな真面目に取り組んでいる。

 私も、真面目にやり始める。


 それも、これも、私の頭が悪いからなのかな。

 高校生活は楽しいけれども、補習だけは大変なんだよね……。



 ◇



 一時間経っても、みんな頑張って補習課題をやり続けているようだった。

 かなりの量があるので少しでも進めておきたいというところだろう。

 補習として設けられている一時間では、だれも終わっていなかった。



 みんな真面目に取り組んでいるからという理由で、私も真面目にやり続けている。


 けど、この課題を一日でやったからって、一気に勉強ができるなら苦労は無いんだよね。

 赤点を取っている私が言えたことじゃないけれども、一気にやってしまわないとだよねぇ……。


 そう思っていると、隣に座っていた芽衣が話しかけてきた。


「咲良、そろそろ、集中力切れてこない?」

「確かに、そうだよね」


「ちょっと場所変えて、やろうよ。今日、新作カフェが出る日なんだよ」


 芽衣は、目をルンルンと輝かせていた。

 遊びに行くのとはちょっと違うけれども。

 みんな必死で補習課題をしているところから抜けだすのは、なんだか悪いことをしているみたいな気分になる。


「課題を終わらせることが大事なんじゃないよ。実際に身につけることが大事なんだよ」


 芽衣の言葉は、説得力が無いようだけれども、いつも追試では満点に近い点数を叩き出している。

 私も、そんなやり方ができるのかわからないけれども、芽衣の誘いに乗ろうと思った。


 やっぱり、ここに居ても捗らないもん。


 私と芽衣は、荷物をまとめるとすぐに教室を出た。




「ははは。今は、ちょっと休憩なだけだからね!」


 芽衣はそう言って笑っていた。


「うん、わかってる」


 私も笑って答える。




 教室を抜け出して、二人で遊びに行く感覚。

 悪いことをしている気分なんだけれども、すごく楽しい気分になれる。


 私は、芽衣の手を握った。

 やわらかい手。

 私の大好きな手。


「私さ、こういう風に授業を抜け出すみたいなことって、好きだよ。脱出だね!」

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