ポケモン

 アニメの世界って、いつか行ってみたいなって思ったりする。

 そういう思いって誰でもあるっていうのは、ネットの中では聞いたりもするけれど。

 実際の友達にそんな話をすると、引かれちゃうかなって。


 もしくは、そこまで引かれなくても、友達からは子供っぽいって言われたりしそうだから、誰にも言えないんだよね。


 私だけじゃないと思うんだけれども。

 私は遠慮しがち……。



「おっすー!」


 お母さんと街中を歩いていると、声をかけてきた人がいた。

 赤いキャップを被って、つばを後ろの方に向けている。


 大きなリュックを背負っていて、そこからぬいぐるみがいっぱい垂れ下がっていた。

 リュックの横には、ちらっと見えるだけで、缶バッチが大量についている。

 なんだか変な人に声をかけられてる……。


 お母さんは、何か気づいたようで声をあげた。


「あーっ! 誰かと思ったら、さとし君!?」


 聡君と呼ばれた、変な恰好をしている男の人は、元気に頷いた。

「うん!!」



 お母さんの知り合いなのかな……?

 私が不思議がっていると、お母さんが教えてくれた。


小春こはるの従妹の聡お兄ちゃんだよ」


「えー? 聡お兄ちゃん?」


 以前見たことあるお兄ちゃんでは無かった。

 もう少し、地味目の恰好をしてたと思うんだけれども……。


 私も面識があったのだが、あまりの変わりように、恐る恐る聞いてみた。


「あの、聡お兄ちゃん……? その恰好どうしたの……?」


 聡お兄ちゃんは、笑って答えてくれた。

「これから、ポケモンセンターに行くんだ!」

「……ほぇ?」


 どうも、今日はポケモンセンターでイベントがあるらしかった。


「小春、一緒に行く?」


 聡お兄ちゃんの誘い、私も行ってみたいと思った。


「うん」と自然と答えていた。



 ◇


 友達とは、こういう話はあまりできなかったけれども、聡お兄ちゃんは恥ずかしげもなくアニメの話をしていた。

 これが好きっていうのが、全身から伝わってきた。


 聡お兄ちゃんは言う。


「アニメだろうと、ゲームだろうと、自分の好きなものを我慢してもツマラナイでしょ?」


 そういう聡お兄ちゃんは、とても楽しそうな顔で笑っていた。


「好きなものは好きって言う! ‌小春もそうしないと人生後悔しちゃうぞ!」


 私もそうしたい……。

 誰に遠慮することなく、好きなものを好きって言いたい。


「私、ずっとこういう所に来てみたかった……」

「うんうん。大丈夫! ‌ここにいる人は、みんな大好きだからここにいるんだよ!」


 言うことは、恥ずかしいことじゃない……!



 聡お兄ちゃんの方を向いて、私も言った。


「私も、ポケモン大・大・大好き!!」

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