雨水

 雪の降る地方だと、よく言われることだけれども、雪の日は傘なんて差さないのだ。


 あと、雪は降ってくるというよりも、舞っているという方が適切だ。


 学生は、雪の舞う中を歩いて登下校をするんだ。

 雪にも種類があって、冬だとすごく軽い雪が舞っている。

 だから、濡れることもない。



「今日は傘持っていきなさいよー」

「そうなの? ‌雪じゃないんだ?」

「最近暖かいからね」


 段々と冬の終わりを告げているのか、春が近づいているのか。

 雪も段々と重くなってきていた。


 そんな今日は、とうとう雨が降るようだった。

 冬の雪って、好きだったけどな……。



 雨だとしたら、今日は長靴がいいかもな。

 私は長靴を取り出して、それを履いて学校へと向かった。

 空は、どんよりとした厚い雲が一面を覆っており、朝なのに夜のように暗く見えた。


 天気予報の通り、午後は雨が降るのだろう。




 ◇




 今日も授業が終わり、帰りのホームルームが始まる。

 案の定、雨が降り始めていた。


 先週までだと、雪が舞って明るかったのに。

 白い世界が広がっていたのだけれども、雨だと全てが暗く見える。

 今日は雨だから、真っ暗。


「ヤベー。今日は雪じゃなくて、雨なんだ……」


 そんな声が聞こえてくる。



「最近は、インフルエンザが流行っているから、手洗いうがいをして……」


 先生は、いつもの決まり文句を言っている。

 窓の外の暗い世界には、ぽつぽつの傘の花が咲いていた。



「それでは、ホームルームを終わります」


 先生がそう言うと、みんな帰っていく。


 今日は部活もない日。

 私もすぐに帰ろうかな。

 そう思って下駄箱へと向かった。



 気温は暖かいが、雨に濡れるとさすがに寒い。

 濡れてしまう分、雪の日の方がまだ暖かいかもしれない。


「結構な雨だなー……」


 下駄箱で、冬馬君が呟いていた。

 いつもは元気がいいけれども、雨をぼーっと眺めている。


 私がゆっくりと長靴を履いている間に、どんどん生徒たちが帰っていった。

 騒がしかった下駄箱も、人が少なくなってきた。

 ほとんどの子が帰ってしまっているので、下駄箱周りの音はしない。


 相変わらず雨を眺めている冬馬君。

 雨音しか聞こえない下駄箱の軒先で、途方に暮れていた。


 私から話しかけた。


「冬馬君、私とで良かったら、一緒の傘入る?」

「うーん」


 冬馬君は悩んでいた。

 私は答える。


「別に深い意味はないよ。雨に濡れるって寒いと思うからさ」


 抑揚のない声で答える。

 ちゃんと耳を傾けていないと、聞こえないくらいの声かもしれない。


 その声を、冬馬君はしっかり聞いていてくれたようだった。


「じゃあ、お願いしようかな」

「うん」


 私は、冬馬君の家の近くまで一緒の傘に入って帰る。


「俺の方が身長高いから、傘持つよ」


 そう言って、冬馬君は傘を持った。

 冬馬君は半分濡れる形。


 私を濡らさないように、傘を寄せてくれている。


「気を使わなくていいよ。私が近づけばいいから」

「……おう」


 かなりの量が降っている雨の中。

 自分が濡れたくないと傘を被る人たちは、誰も周りなんて見ない。


「冬馬君、背伸びたね」

「おう」


 春が近づく季節。

 雪が雨に変わるような季節。

 雨水って言うらしい。


 日々流れていく季節の一つだけど。

 こういう季節も、好きだな。

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