文通

 今日は武尊たける君から手紙が来る日だ。

 私は毎週楽しみにしてるんだ。

 武尊君は、文通をしている男の子。


 元々近くに住んでて仲が良かったんだけど、お父さんの仕事の都合で転校しちゃったんだ。

 転校したあとから、文通をしてるの。

 その週にあったことなんかを、お互いに伝えあったりするんだ。



 私は、学校から軽やかにスキップをしながら帰ってきた。

 背負っていた赤いランドセルも、自然とウキウキと飛び跳ねていた。


 家の前まで着いて、ウキウキしながら郵便受けを開けてみた。

 武尊君、今日は何を教えてくれるのかな?


 そう思って楽しみにしていたけど、そこには何も入っていなかった。

 空っぽの郵便受け。

 何も無くて、向こう側の壁だけが見えた。


「……あれ? ‌お母さんが取ったのかな?」



 お母さんがお出かけして、帰ってきた時に取ったのかもしれない。


 すぐ家に入って、靴を脱ぎ捨てる。

 そして、台所まで走っていって、お母さんに聞いてみた。


「お母さん、手紙来てた?」


 台所で家事をしていたお母さんは、首を捻って答えた。


「えー? ‌今日は来てないみたいだったよ?」

「‌そんなハズないよ! ‌今日は武尊君から手紙が来る日だもん!」



 何かあったのかな?

 今週体調崩しちゃったとかかな?

 何があったのだろう……。


 気になってしまったので、すぐに私の方から手紙を書こうと思った。

 何かあってからじゃ、遅いし。


 すぐに自分の部屋に行き、制服のまま書き始めた。


「武尊君、今週はお手紙が来なかったみたいなので、心配してこちらから書いています。体調でも崩してしまったのでしょうか? とても‌心配です」


 そんな言葉を書き始めをながら、すらすらと文字が続いていった。


 いつもは、武尊君の手紙に対しての意見なんかを入れたりするけれども、それが来てなかったから私の事ばかりがどんどん書かれていった。


 体調悪い時に、私の話なんて聞いても大変かも知れないけど、何とか元気になって欲しいな。


 ◇


 そのまま夢中になって、夕飯時まで書いていたらしい。

 お母さんがドアを鳴らす音で気がついた。


静香しずか、もうご飯だよ」

「……あれ、もうそんな時間か。早いな」


 そう言って振り返ると、お母さんの手には便箋が握られていた。


「……あれ! ‌それってもしかして!?」

「そう。武尊君からお手紙来たよ。読んだらご飯食べに来なさいね」


 私はお母さんから便箋を受け取ると、すぐに読み始めた。


「こんにちは。今回は少しお返事が遅れてしまいました。ごめんなさい。少し書きたいことが多くなってしまって量も多くなっています」


 そう書き始められた手紙は、確かにいつもよりも枚数が多かった。


「いえいえ。無事だったなら何よりだよ。今日もいっぱいお話聞かせてください、武尊」


 武尊君の手紙には、三連休で旅行に行った事などがいっぱい書いてあった。


 やっぱりお手紙があるっていいな。

 文通でやり取りすると、身近に感じられる。

 私もいつか武尊君と旅行とか行ってみたいな。


 ここだけ、私と武尊君の世界だよ。

 私、文通好き。

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