天使の囁き声
窓際の一番後ろの席には、佐々木さんがいる。
黒髪論で、肌も透き通るように白くて。
すごく綺麗な子。
けど、いつも一人で席にいて窓の外を向いていることが多い。
それに無口なんだよね。
すごく話しかけづらいんだ。
授業中も窓の外の、どこか遠くの世界を見ているみたいなの。
私は、そんな佐々木さんを見ていることが多い。
だって、綺麗なものってついつい見たくなってしまうじゃない?
佐々木さんは、頭が良いようで、いつも成績が良かったりした。
すごいよね。
私は、ひそかに憧れを持っていた。
ボーっと佐々木さんを見ていると、前の席から手が伸びてきた。
「ほいっ。プリント回してー」
「おっ、あっ、はい!」
おっとっと。ボケっとしている場合じゃないな。
プリントが回ってきているんだった。
プリントを配る時は黒板側に近い、一番前の人に渡す。
その後は、順番に後ろの席の人に回していくんだ。
たまに先生がプリントの数をかぞえ間違えちゃって、一番後ろの人の分が足りない時があるんだよね。
私の列は大丈夫そうだね。
そう思って、私は安心した。
たまに足りなくなる時、私が声を上げなきゃいけないんだよね。
気の利いた子だと、一番後ろから一つ前の席の子が先生に行ってくれたりするんだけれども。
ふぅ。今日は、プリント足りて良かったな。
さてさて、また佐々木さんでも眺めよう。
あれ?
佐々木さんは、プリントを持っていないみたいだった。
佐々木さんの前にいるやつは、気の利かない男子。
プリントが足りないことすら、佐々木さんに言っていないようだった、
佐々木さんも外を眺めてて、プリントの存在自体気付いていないようだ。
なんてことしてくれてるんだよ。
佐々木さんが可哀想。
それがわかるのは、私くらいだし。
私が出る番だな。
そう思って、声を上げた。
「先生、プリントが足りないみたいです! 窓際の席の列です!」
私が、自分の列じゃない所を指摘したから、先生は目を丸くしていた。
「お、そうだったのか? 悪い悪い。一枚配るよ。良く気づいたな
私は、先生からお礼を言われたけれども。
そこは、特に嬉しいところじゃ無かった。
佐々木さんが、こちらを見てくれていた、
そして、少し微笑んで私を見てくれていた。
何か口をパクパクして言っているみたい。
佐々木さん、声が小さいみたい。
よくみんなから、『天使の囁き』なんて言われてたっけ。
ついつい、私は佐々木さんの方へ寄っていった。
クラスメートが何か言っているのは聞き届けないとだからね。
囁く佐々木さん。
なんだか、私は雪原にいるみたいに感じた。
静かな雪原で、雪が音を吸収しているみたいで。
何も音がしない中、佐々木さんの声だけが聞こえた。
「……ありがとう」
私は、雪原に一歩踏み出したみたい。
白く広がる雪原で、ちょうど歩いた部分だけが色が変わるように。
佐々木さんの白い頬が、ほんのり桃色に染まった。
私は、雪の中の佐々木さんに返事をする。
「どういたしまして」
佐々木さんの天使のような囁き声。私好きだな。
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